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| さて、今回は艦上戦闘機「烈風」について講義しましょう。
| これは零戦の後継でありながら開発にてこずり、緊迫する戦況の中でいつまで経っても登場せず。
| ようやく試作機が出来た頃には、戦争が終わっていたという悲劇の機体です。
| 「烈風が間に合っていれば……」などとの声も多く聞こえる、いわくつきの戦闘機。
| まさに、「間に合わなかった兵器」の代表格がこの烈風というわけですね。
| そうした不幸な戦闘機について、解説していきましょう。
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    | 結局、試作機だけで終わってしまった戦闘機なんだな。
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         | この烈風は、極めて優れた能力を秘めていたと言われる機体なんだ。
         | 人によっては、「烈風が間に合っていれば太平洋戦争の展開は変わった」とまで言うが……
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| 烈風――その計画時の名称は、十七試艦上戦闘機でした。
| この十七試艦戦開発の指示が海軍から三菱になされたのは、1942年4月。
| ガダルカナル戦が目前に迫っているという、非常に遅れた時期でした。
| 兵器の開発には時間が掛かり、新型がデビューした頃には後継の開発をスタートしないと間に合わない――
| これは当時の戦闘機開発の原則でしたが、それに逆らってしまったんですよ。
| 結果として、十七試艦戦は太平洋戦争に間に合わないという悲劇を生んでしまいます。
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    | なんで、計画の開始がそんなに遅れたんだ?
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         | 実は零戦がデビューした1940年に、後継機開発計画が始まってる。
         | しかし難を抱えた零戦の改良、雷電の開発などで三菱陣営は手一杯。
         | 後継戦闘機の開発にまで手が回らず、計画は1941年にいったん中止されてしまうんだ。
         | 零戦が高性能過ぎたので、後継戦闘機開発の後回しに対する危機感は薄かった――
         | 有効なエンジンがなかったという事情も大きいとはいえ、致命的失点の一つだな。
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| 十七試艦戦開発計画の主任となったのは、九六艦戦零戦の生みの親である堀越技師。
| 彼は零戦改良や雷電の開発にも追われる中で、後継機開発にも取り組みます。
| 当然ながら十七試艦戦(以後、烈風と呼称)は、零戦を超える戦闘機でなければいけません。
| その性能実現のためには、2000馬力級のエンジンを採用するほかに道はありませんでした。
| 問題は、当時の日本に信頼できる2000馬力級のエンジンが存在しなかったということなんです。
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    | やはり、エンジンの問題なのか……
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         | 海軍航空機に限らず、陸軍航空機の講義でもエンジンの嘆きは頻発するぞ。
         | 2000馬力級エンジンともなるとアメリカでさえ苦労したのに、日本はもっと深刻だ。
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| そして当時、開発中の2000馬力級エンジンは二つ。中島の『誉』と、三菱の『ハ四三』です。
| 『誉』の方は試作段階ながら海軍の審査をクリアし、銀河などに搭載して試験を行っている段階でした。
| 三菱の『ハ四三』はまだまだ開発中ですが、三菱としては烈風にこの自社製エンジンを載せたいのは当然。
| 海軍は、いちおう審査に通っている『誉』の搭載を強硬に主張します。
| こうして海軍と三菱の間で意見が衝突し、半年近くに及ぶ議論が続きました。
| その結果、海軍は半ば強制的に『誉』の搭載を押し通してしまうという結果に終わります。
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 『誉』:中島と海軍が共同開発していた2000馬力級エンジン。
     この当時、すでに海軍の審査をパスし、詳細な試験中だった。
 『ハ四三』:三菱が共同開発していた2000馬力級エンジンで、『誉』よりも出力は上。
       『誉』ほど開発が進んでおらず、海軍の審査も通っていなかった。
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    | このエンジン論争も、なかなか大きい時間のロスだよな。
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         | 海軍と三菱、どちらの主張が正しかったかは現在でさえ議論になる。
         | 「『ハ四三』の方が能力が高いのに、海軍は頑ななまでに『誉』を推した」という見方。
         | 「実用審査に合格していないエンジンを推した三菱の姿勢はどうか」という見方。
         | どちらにも頷ける点があり、簡単には結論の出ない問題だな。
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| その後も零戦改良や雷電開発に追われ、烈風の開発は遅々として進まず――
| 2年後の1944年4月、ようやく烈風の一号機が完成します。
| これがA7M1と呼ばれている初期型なんですが……その性能は、予想外にショボいものでした。
| 2000馬力級のエンジン『誉』を搭載しているにもかかわらず、速度性能は零戦と同レベル。
| 上昇性能も悲惨な数値が出るに及び、海軍は1944年8月に烈風の開発計画中止を命令します。
| 『誉』を搭載したA7M1は、とんでもない駄作機として終わってしまったんですよ。
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    | あれ? これで、烈風の話は終わり?
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         | エンジン選定で、三菱と海軍が対立したことを思い出してほしい。
         | 結果的に海軍の推す『誉』に決定したんだが――三菱は、今もこの決定に満足していなかった。
         | 堀越技師を初めとした三菱陣営は、自社製エンジンの『ハ四三』に自信を持っていたんだ。
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| 三菱はこの結果において、「A7M1の性能が振るわなかったのは、エンジンが悪いせい」と主張。
| 海軍はそれをエンジンへの責任転嫁とみなし、三菱側の訴えを黙殺してしまいます。
| こうして三菱は、自社製エンジンである『ハ四三』搭載バージョンの烈風――A7M2の開発を始めました。
| この時は海軍によって烈風の開発中止が決定されているので、事実上三菱の独自開発の形ですね。
| 海軍には「もう、好きなようにやらせてやればいいじゃないか」という空気があったと関係者は記述しています。
| もはや烈風には期待を抱いていなかったという状態だったんですね。
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    | エンジン選定のゴタゴタがあったから、三菱も不満だったんだろうなぁ。
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         | 技師としてのプライドの問題だろうな。
         | 執念をもって、三菱側は『ハ四三』を搭載した烈風の開発を進めたんだ。
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| こうした事情を背景に、『ハ四三』を搭載した烈風――A7M2試作一号機は1944年10月に完成します。
| これがびっくり、その性能は非常に優れたものでした。
| 『誉』とて紫電改などに搭載されて優良な性能を示していたんですが、どうも烈風には合わなかったようですね。
| 『ハ四三』を搭載した烈風の性能は素晴らしく、さらに操縦性や安定性も卓越したものでした。
| 海軍は掌を返したように、烈風を絶賛。「零戦の再来」とまで賞賛したんですよ。
| こうして、海軍は方針を一転させて烈風採用の流れを進めていくことになります。
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    | なんか、海軍も勝手だな。
    | 過去にあれだけ冷たくしたのに、いざ優良機になったら一転して絶賛するなんて……
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         | 優良機となったのに、過去のいきさつにこだわって採用しないとかいうより数倍マシだ。
         | まだまだ合理的に動いた方だと思う。
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| しかし……その頃には、もはや艦上戦闘機を運用する空母自体が存在しませんでした。
| とは言え日本列島に毎日のように敵機が飛来する昨今、防空用の戦闘機はいくらあっても足りません。
| そして烈風の性能を見るに、迎撃機としても十分に使える水準にありました。
| こうして烈風は、本土防空を受け持つ局地戦闘機として期待されていくことになります。
| B-29に対向した高々度戦闘機型である烈風改の開発もスタート、烈風は新たな用途で道を開いていくことに。
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    | もはや、艦上機なんて造ってる状況じゃなかったんだな。
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         | 烈風開発のスタート時とは、まるで状況が違ってしまっていた。
         | 空母がないんだから、艦上機なんて造ったって仕方がないだろ。
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| しかし……情勢は、どこまでも烈風に冷たいものでした。
| 1944年末にはB-29による爆撃が激しくなり、兵器工場が次々とやられていきます。
| その上に、開戦以来の激務と心労がたたって堀越技師が倒れ、開発現場は大混乱に。
| とどめに東南海地震が起き、三菱の工場は壊滅的ダメージを受けます。
| こうした混乱で烈風実用化のための改良は進まず、量産も程遠いという有様……
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    | もう、踏んだり蹴ったりだな。
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         | 敗戦間際の国ってのは、こんなもんだ。
         | 何をやろうとしても、劣勢がたたって上手くいかない。
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| 1945年6月には烈風一一型として採用が決定しましたが、やはり量産は進みませんでした。
| 結果的に、量産型一号機が完成直前に終戦を迎えてしまったんです。
| 終戦時点までに完成した試作機は8機だったんですが、現在では1機も残っていません。
| アメリカに引き渡す引き渡さないのゴタゴタの中、投棄されたりどこかに消えたり――
| そういうわけで実戦にすら参加できなかった悲劇の戦闘機は、歴史の闇に消えていきました。
| 実戦経験がないのですから、兵器としての性能など評価できるはずもありません。
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 ・艦上戦闘機「烈風」(A7M)
  零戦の後継機となるはずだった戦闘機だが、試作機8機の完成のみで終戦を迎える。
  量産は間に合わずに実戦を経験せず、結果的に幻の戦闘機となってしまった。
  その性能は高いとされるが、現在に至るまで評価は分かれている。

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    | 性能は分かってるんだから、実戦での強さも推測できないのか?
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         | 推測に基づく評価なんて、結局は推測に過ぎない。
         | 烈風の兵器としての正当な評価は、できないままに終わってしまったんだ。
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| さて、ここで烈風の特徴を見ていきましょうか。
| 艦上戦闘機でありながらかなりのデカさで、海軍関係者はその大きさに困惑したとあります。
| しかし、それでいながら零戦の後継だけあって運動性はかなりのもの。
| 紫電改にも搭載された自動空戦フラップという機構を持ち、運動性は零戦以上とも言われていますね。
| 「アメリカ機は一撃離脱を重視しているのに、運動性能にこだわるのは非合理的」という批判も出ています。
| まあ艦上戦闘機である以上、そこらへんの軽快さを重視しなければいけないというのも仕方ないところ。
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 艦上戦闘機「烈風」(一一型)
 ・全長:10.984m  ・全幅:14.00m  ・全高:4.23m  ・全備重量:4,719kg
 ・最大速度:624.1km/h  ・航続距離:1,960km+全力飛行30分  ・乗員:1名
 ・エンジン:三菱『ハ四三』一一型 空冷星型18気筒(2、200hp)×1
 ・武装:20mm機銃×4
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    | やっぱり、評価は難しいんだな。
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         | 特に烈風なんかは、開発スタート時の要求と完成時の需要が異なってたからな。
         | その方向性はちぐはぐに見えても仕方ないところもある。
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| 武装は、当初の予定では20mm機銃2挺と13.2mm機銃2挺を搭載予定でした。
| しかし局地戦闘機としての採用が決定した際、20mm機銃4挺に改められています。
| もっともこれは計画上の話で、試作機は20mm機銃2挺と13.2mm機銃2挺が備えられていました。
| また防弾性能に関しても考慮がなされ、防弾ガラスや自動消火装置が搭載されています。
| 「零戦とF4Fとの性能比較は、烈風とF6Fとの性能比較とほぼ等しい」と言われていますね。
| F6Fに比べて防弾性などで劣りますが、運動性で上回るといったところでしょうか。
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    | でもこれ……1943年秋に登場したF6Fと比較した話だよな。
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         | そう、2年も前に完成したアメリカ機と比べてるんだ。
         | この烈風と同世代だと、「最強のレシプロ戦闘機」という評価さえあるF8F。
         | 下手すりゃ、ジ ェ ッ ト 戦闘機のP-80とも同世代になりかねない。
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| そういうわけで、「烈風が完成していればアメリカ戦闘機など……!」なんてのは世迷い事。
| 太平洋戦争末期のアメリカでは、音速突破機X-1の計画が動き始めているという段階だったんです。
| これでは烈風が完成していたとしても、戦局には全く変化はなかったでしょう。
| さらに、量産された烈風(というかエンジン)が試作型と同じ水準を保てるかという問題もあります。
| 当時の情勢から考えて、高品質のエンジンを生産することは不可能だったでしょう。
| あの機体やあの機体などと同じように、カタログ性能を発揮できない機体が増えただけだと思われます。
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    | いくらなんでも、夢も希望もない評価じゃないか……
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         | 夢や希望をたっぷり乗せた評価が聞きたいのか?
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| そういうわけで、結局のところ実戦参加しなかった兵器の評価などできません。
| しかし……同世代の敵機や当時の国情を勘案すると、あまり愉快な結果にもならなかったでしょう。
| さらに烈風はと言うと、堀越技師さえ駄作と言い切り、あまり触れたがらなかった機体。
| 確かなことはたった一つ。烈風が実用化されても、戦局はなんら変わりませんでした。
| それでも「もしかしたら……」と後世の人々に思わせてしまう、それが烈風マジックといったところでしょうか。
| そういうわけで、艦上戦闘機「烈風」の講義を終わります。
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    | MSイグルーが見たくなってきたな。
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         | 戦争とは勝つべくして勝ち、負けるべくして負けるものだよ。
         | 航空機や戦車の性能ひとつでどうにかなるものなら、ドイツの圧勝で大戦は終わってる。
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