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| さて、今回は局地戦闘機について講義していきましょう。
| この局地戦闘機とは何かというと、板書した通りの迎撃戦闘機です。
| 1930年代後半――日中戦争の際に、日本海軍はこの機種の必要性を痛感。
| しかし実際に局地戦闘機の第一弾である雷電が完成したのは、太平洋戦争の後半でした。
| どうしてそうなったのか、局地戦闘機とは何なのか――それを、講義していきますね。
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 ・局地戦闘機
  日本海軍における基地防空用の戦闘機で、いわゆる迎撃機。
  基本的に、飛来してくる敵爆撃機を叩き落すのを任務としている。
  空母での離発着は不可能で、飛行場での運用のみが可能。
  この種の陸上機を海軍が保有するのは、日本海軍以外に例を見ない。
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    | 局地戦闘機って、寒冷地とか環境の特殊なとこで運用する戦闘機だと思ってた。
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         | それ、元を辿ればガンダムの影響だな。たぶん。
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| 太平洋戦争前の日本海軍は、以下に板書した漸減作戦という構想を抱いていました。
| いざ優勢なアメリカ艦隊と決着を付けることになった際は、こういう風な作戦展開を想定していたんです。
| この漸減作戦に従って日本海軍は軍備を整え、その中に陸上攻撃機という機種がありました。
| 陸上攻撃機とは、あちこちの離島に造られた航空基地から飛び立つ、長距離対艦攻撃機のこと。
| こうした陸上攻撃機が、板書の2のところで活躍するわけですね。
| そういうわけで日本海軍は、あちこちの島に飛行場を維持することを重視していました。
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  1.アメリカ艦隊が攻めてきた! いよいよ決戦だ!!
  2.潜水艦や航空機などの補助的手段で、アメリカの艦を減らせるだけ減らす(漸減)。
  3.敵艦隊が弱ってきたところに、日本の主力部隊(戦艦)が突撃!
    日本の戦艦は少数だが非常に強力なので、2の時点で弱っているアメリカ艦隊を一網打尽!
  4.大日本帝国万歳!!
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    | なるほど。
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         | そして、陸上攻撃機などというものを重視していた海軍も日本くらいだった。
         | それも全て、漸減作戦のためだな。
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| しかし……日中戦争において、中国の航空隊が日本側航空基地に奇襲を仕掛けてくるという事例が頻発。
| 日本側は「何をするだァーッ ゆるさん!」と直ちに上がりましたが、中国側の爆撃機はその途端に逃走。
| 結局やられるだけやられ、敵爆撃機はまんまと逃げおおせるという事例が相次ぎます。
| 当時の主力戦闘機であった九六式艦上戦闘機では、敵の基地攻撃に対応できなかったんですよ。
| 現地の航空部隊は、「航続力、操縦性の一部を犠牲とするも速力を極度に要求す」と中央に訴えます。
| 当時重視された軽戦闘機とは、明らかに別種の戦闘機が必要となってきたんですよ。
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    | 必要は発明の母、か。
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         | 従来の海軍戦闘機では、敵爆撃機と同じ高度に上がるまでに時間が掛かる。
         | さらに、逃げる敵爆撃機に追いつけなきゃならなかったんだ。
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| これまでの講義で解説してきた通り、日本海軍の戦闘機は徹底的に軽量化されていました。
| この時代の主力戦闘機である九六艦戦はもちろん、その性質は後の零戦にも受け継がれています。
| ですがこれらの軽戦闘機、敵戦闘機との近接格闘戦ならメチャクチャに強かったんのすが……
| 重厚な敵爆撃機をブチ倒すには、ウェイト的に少々不向きだったんですよね。
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 ・艦上戦闘機に重視された能力
  俊敏な旋回性能。抜群の操作性。長めの航続距離(滞空時間)。

 ・局地戦闘機に重視された能力
  抜群のスピード。ただちに上がれる上昇力。重防御の爆撃機をも葬れる火力。
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    | なるほど。任務が違えば、同じ戦闘機でも求められる能力が違うんだな。
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         | 局地戦闘機が相手をするのは鈍重な爆撃機だから、旋回性能は余り必要じゃない。
         | でも敵爆撃機に追いつけなかったら話にならないので、高スピードは必須。
         | 必然的に自軍基地の近くで戦う事になるので、航続距離はほとんど問題にならない。
         | 敵爆撃機と同じ高度まで上がる為、上昇力も重要……従来の海軍戦闘機とは全然違う訳だ。
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| そういうわけで、従来の海軍戦闘機では爆撃機の迎撃に凄まじく不向きなのは明らか。
| ここで日本海軍は、初めて迎撃専門機の重要性に気付いたんです。
| そこで、いよいよ局地戦闘機という種類の航空機の開発がスタートしました。
| こうして日本海軍は1939年、三菱に十四試局地戦闘機――後の雷電の開発を指示したんです。
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 ここが違うぜ、局地戦闘機!
 ・爆撃機迎撃に特化し、近接格闘戦は苦手。
 ・上昇力が極めて高い。
 ・空母では扱えず、陸上の飛行場からしか離着陸できない。
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    | 空母では扱えない……普通の海軍なら、局地戦闘機なんてまず不要な航空機だな。
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         | 漸減作戦があるからこそ、陸上攻撃機ってのが存在する。
         | そして陸上攻撃機があるからこそ、局地戦闘機が必要になったわけだ。
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| 雷電の開発を担当したのは、あの九六艦戦零戦の生みの親である堀越二郎氏。
| 零戦の改良に追われながらも、堀越技師は雷電の開発を進めることになったんですが――
| この雷電開発は、あの難産だった零戦以上に難航してしまうことになるんです。
| 海軍が提示した十四試局地戦闘機計画要求書は、例によって非常に険しいもの。
| この仕様を達成するには、高出力のエンジンが必須だったんですが……
| ああ、エンジン(涙)……
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 十四試局地戦闘機計画要求書(一部)
 ・高度6,000mで、時速602km以上。時速630kmをクリアするのが望ましい。
 ・高度6,000mまでに、5分30秒で到達可能。
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    | また、エンジンの哀しい話か。
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         | 何度も何度も繰り返すように、日本機のネックはエンジンだ。
         | 日本の航空機開発はエンジンに泣き、エンジンにブチのめされる。
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| ここで選ばれたのは、当時の日本において最大馬力を発揮していた『火星』というエンジン。
| これは本来は戦闘機用のものではなく、攻撃機などの大型機用に開発されたものでした。
| それゆえにサイズが大きく、これを無理に搭載すると機体の胴部は肥大化。
| こうして胴体がでっぷりとした形状になったせいで、操縦席が圧迫されてしまいます。
| 下方の視界がメチャクチャに悪くなるなど、もはや問題がてんこ盛り状態。
| 1940年になっても、年が明けて41年になっても、41年の末になっても雷電は完成しませんでした。
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    | 41年末って、もう対米開戦するじゃん。日中戦争に間に合うどころじゃない話だな。
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         | 雷電の下方視界は悪いものの、操縦席自体は非常に広かった。
         | 「3人乗れる」とか、「中で宴会ができる」とか言われたくらいだ。
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| 日本海軍は三菱に「雷電マダー?」と催促しても、よい返事は全く返ってきません。
| 一方その頃、水上機開発で実績を誇る川西航空機は、水上戦闘機「
強風」を開発していました。
| この川西が陸上戦闘機の開発にも取り組む意欲を見せ、海軍に強風の陸上機改造案を提案。
| 1941年12月に海軍はそれをすんなり認め、強風を陸上機に改造するということになります。
| この当時は本命である局地戦闘機「雷電」の開発が難航、その保険の意味合いが大きかったのでしょうね。
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 ・水上戦闘機「強風」(N1K1)
  1943年12月に採用されたが、その頃にはすでに活躍の場が失われていた水上戦闘機。
  性能も二式水上戦闘機と比べてさほど高くなく、その活躍はほとんどなかった。
  この機体を改良して局地戦闘機「紫電」/「紫電改」が生まれており、むしろその前身として名を残す。
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    | この強風自体は、ほとんど活躍できなかった機体だったな。
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         | 強風の性能は結果的に微妙だったものの、いくつかの新機構を備えた斬新な機体だ。
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| 「仮称一号局地戦闘機」という名称の通り、海軍は局地戦闘機としての運用を考えていました。
| しかし、陸上機版の強風――後の局地戦闘機「紫電」の開発にも、大いにてこずることになります。
| フロートを外し、代わりに車輪を備え付けて終わり――という話にはならず、結局は機体のほとんどを再設計。
| 何より問題になったのが、新たに載せることになった小型高出力エンジン『誉』の不調でした。
| これに起因する幾多の問題が開発陣を悩ませ、紫電の開発は遅れに遅れます。
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    | こっちもエンジンか……! しかも『誉』って、他にも前科がなかったっけ?
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         | 中島製の『誉』は小型で高出力のエンジンだが、とにかくトラブルが多かった。
         | このエンジンに泣かされた機体は、海軍機に数多い。
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| そして1942年の2月には、めでたく雷電の試作一号機が完成しました。
| しかし翌月に行われた試験飛行では、全くめでたくない結果が出てしまいます。
| 最高速度が要求値に届かず、実用には適しないという無惨な事態になったんですよ。
| そういうわけで、より高出力の『火星』二三甲型にエンジンを換装し、開発を再開することに。
| 振り出しに戻ったとまではいきませんが、またやり直しです。
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    | 本当に難産だったんだな……
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         | しかもこの時期、三菱開発陣は零戦の改良にも追われていた。
         | 零戦の後継機である烈風に手を回す余裕なんて、全くなかったんだ。
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| 8ヶ月後の1942年10月には、雷電のエンジン換装型が完成します。
| この試作機のテストではなんとか要求値をクリアしたんですが、またもや問題発生。
| 胴体の異常震動が発生し、開発陣を悩ませることになってしまいます。
| もう、あっちが直ればこっちに問題発生。こっちが直れば、そっちに問題発生……
| おまけに試作機の墜落事故が発生、死者まで出るに及んで完成は伸びる一方となりました。
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    | なんかもう、難産というより散々だな。
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         | この異常震動を解決するには、プロペラの改良から始めなければならなかった。
         | こうして、雷電の完成はますます遠のいていくことになるんだ。
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| 一方で、紫電開発の方はどうなったかというと……1942年の12月、紫電の試作一号機が完成していました。
| しかし開発の遅延はなかったものの、この紫電とて雷電に負けないほどの問題児だったんです。
| エンジン『誉』の不調は直らず、離着陸の時はエンジントラブルの可能性がつきまとっていました。
| 視界は悪く主脚にも不具合発生、速度も意外に出ない――頭を抱えてしまうような状態。
| それでも、とにかく早急に局地戦闘機が欲しい海軍は1943年8月に紫電の量産を指示します。
| 同時に紫電の改良も指示し、量産しながら改良を待つという方針になったんですよ。
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    | いよいよ量産だが……なんか、いかにも危なげだな。
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         | いつまで経っても雷電は完成しないし、どうしようもなくなっていたんだ。
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| そして1ヵ月後の1943年9月には、いよいよ雷電の方も生産が開始されました。
| 実際は問題が解決されてたとは言えず、かなり危なっかしかったんですが……
| いよいよアメリカが反撃を始めてきた情勢、一刻も早く局地戦闘機が必要だったんですよね。
| この際には、制式採用は保留のまま生産するという、実に異様な処置が取られています。
| 雷電が書類上のこととはいえ制式採用されたのは、なんと1944年10月でした。
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    | 局地戦闘機は、雷電紫電も問題大発生だったんだな。
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         | とは言え、とりあえず雷電紫電ともに生産が開始された。
         | 1943年後半ともなると日本はかなり追い詰められ、悠長に改良を待つどころじゃなかったんだ。
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| ではここで、まず雷電の方から細かく見ていきましょう。
| 先程も言った通り、視界の悪さと機体の異常震動はあんまり直っていません。
| 他にも着陸時にスピードが出過ぎて事故が続出、かなり危険な機体でした。
| 新米パイロットではほぼ間違いなく乗りこなせませんし、熟練者でさえ油断はできません。
| 試験で、訓練で、実戦で――あらゆる状況で事故を起こし、殉職者が続発。ついたアダ名は「殺人機」。
| 細かな改良は以後も重ねられましたが、完全な問題改善には程遠かったですね。
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 ・局地戦闘機「雷電」(J2M)
  でっぷりしたボディが特徴的な局地戦闘機で、1943年9月に生産が開始されている。
  幾多の問題を抱えた機体であり、事故が続出。多くのパイロットからは「殺人機」と呼ばれ嫌われた。
  しかしその速度性能と上昇力は一流で、一部の熟練パイロットは本土防空戦で奮戦。
  非常に扱いづらいが、B-29の撃墜記録も多いベテラン向けの戦闘機である。

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    | それ、もはや欠陥機って言わないか?
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         | パイロット達による雷電のアダ名は、「爆弾」とか「ダルマ」。
         | 1トン爆弾によく似た外見は、当時のパイロット達を驚愕させた。
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| そんな問題機ながら、並外れた上昇力は海軍機で堂々のトップを飾っていました。
| また20mm機銃×4という攻撃力は凄まじく、重厚なアメリカ爆撃機でも十分に張り合えます。
| B-29になんとか対向できる、唯一の戦闘機が雷電だったわけなんですね。
| こうして雷電は、本土防空部隊に優先的に配備されました。
| 現場でのパイロットの評判は極めて悪いながら、一部のベテランには非常に好まれます。
| 優れた性能を持っていることは間違いないのですが、やはり扱いにくすぎるんですね。
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 局地戦闘機「雷電」(二一型)
 ・全長:9.695m  ・全幅:10.80m  ・全高:3.945m  ・全備重量:3,507kg
 ・最大速度:611km/h  ・航続距離:1,050km  ・乗員:1名
 ・エンジン:三菱『火星』二三甲型 空冷星型14気筒(1,820hp)
 ・武装:20mm機銃×4、60kg爆弾×2
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    | 素人はお断りな機体だな。
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         | 熟練したパイロットが扱えば、かなりの戦闘力を発揮したのもまた事実。
         | あくまで、熟練者が用いた場合だがな……
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| そういうわけで、雷電を扱った航空部隊は数々の逸話を残しています。
| 油田地帯を守っていた第三八一航空隊は、この地に迫ってくるP-38やP-47、B-24などを雷電で迎撃。
| なにせ油田が近いので高品質の燃料が使えることも幸いしてか、かなりの戦果を挙げています。
| また第三〇二航空隊における雷電の活躍も有名で、かなりの数のB-29を葬りました
| この航空隊に所属する赤松貞明中尉などは、雷電乗りのエースとして非常に有名です。
| B-29ばかりか、P-51やF6Fを雷電で落とすという滅茶苦茶な記録を残した人物ですね。
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 「雷電」が配備された部隊例
 ・第三八一航空隊(ボルネオ島パリクパパン)
 ・第三〇二航空隊(厚木)
 ・第三三二航空隊(岩国)
 ・第三五二航空隊(大村)
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    | 逆に言えば、雷電が配備された部隊は限られたということか。
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         | とは言え、雷電は爆撃機の迎撃に特化した機体。
         | B-29がP-51戦闘機を護衛に付けるようになってからは、雷電では手も足も出なくなった。
         | 雷電の生産を中止し、紫電改の生産に集中すべきという声も聞こえたほどだ。
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| 雷電の各タイプは以下の通りです。
| 途中から胴体側面を削って視界を改善しようとしましたが、それでも少しマシになった程度。
| ちなみに、雷電は1機たりとも特攻に使われていません。
| 特攻を行うのは主に新米パイロットなんですが、彼等では雷電をまともに扱えなかったんですよ。
| 「殺人機」と恐れられた雷電が、実に皮肉な話ですね。
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 ・一一型(J2M2):初期生産型。武装は20mm機銃×2に、7.7mm機銃×2と零戦と同じ。
 ・二一型(J2M3):本格生産型で、武装が20mm機銃×4に強化されている。
 ・三二型(J2M4):エンジンを『火星』二三丙型に換装、高々度での行動が可能に。生産は少数。
 ・三三型(J2M5):エンジンを『火星』二六型に換装、高々度での性能が向上。
            胴体側面を改造して視界の改善処理も施しているが、生産は少数。
 ・三一型(J2M6):二一型をベースに、エンジンは換装しないまま、三三型と同じく視界を改善。
            事実上の後期生産型に相当する。
 ・二三型(J2M7):エンジンを『火星』二六型に換装したが、視界の改善処理は施さなかった試作機。
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    | ホントに、皮肉な話だ……
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         | 他にも、航続距離が短かった事も特攻に不向きだった一因だな。
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| なおこの雷電、欧米では非常に評価が高い機体でもあります。
| 戦後にアメリカが雷電をテストした際も、アメリカ軍パイロットはかなり高い評価を下しました。
| 操縦席が非常に広く、その飛行特性も欧米で主流の重戦闘機に似ていたことが高評価のポイントですね。
| また日本軍パイロットを悩ませた機体振動ですが、アメリカ軍パイロットはあんまり気にしなかったみたいです。
| そして現在でも、雷電は海外で人気のある日本戦闘機なんですよ。
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    | なんで? 雷電のどの部分が、外人のハートに訴えかけてるんだ?
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         | ずんぐりした重厚なボディがたまらないようだ。
         | あと、名前(雷電→英訳:サンダーボルト)もカッコいいらしい。
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| そして一方の紫電も、雷電に負けず劣らずの問題児振りを発揮していました。
| エンジンは止まるわ、プロペラが壊れるわ、主脚は折れるわ、下方視界は悪いわ……問題だらけ。
| 機体性能自体はなかなかに優れてたんですが、トラブルが多すぎる戦闘機となってしまいました。
| 正直なところ、決して優秀機とは言えない戦闘機に仕上がってしまったんです。
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 ・局地戦闘機「紫電」(N1K1-J)
  水上戦闘機「強風」を局地戦闘機として改良した戦闘機。
  エンジン換装などの大改良を行い、その性能はそこそこ優れた水準に仕上がっている。
  しかし下方視界の悪さや頻発する故障など問題も多く、幾多の欠陥を抱える問題機。
  この機をさらに改良し、完成したのが局地戦闘機「紫電改」である。

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    | やっぱ、こっちも問題機だったのか。
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         | そもそも川西は水上機開発が主で、陸上戦闘機はこれが始めてだったんだ。
         | そんな機体に頼らなければいけなかった海軍事情も、かなり厳しいと言えるな。
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| また紫電の高々度性能はイマイチで、爆撃機迎撃に適していたとは言い難いですね。
| しかし空戦性能はなかなか高く、零戦のサポート役として本土防衛に駆けずることになります。
| それでもやはり故障はひどく、結局のところは「零戦よりはマシ」っていう程度の存在でした。
| 高いところは苦手、爆撃機との戦いも得意じゃないが、戦闘機相手だとめっぽう強い。
| そんな機体特性は、紫電改にも受け継がれていることになります。
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 局地戦闘機「紫電」(一一型)
 ・全長:8.885m  ・全幅:11.99m  ・全高:4.058m  ・全備重量:3,900kg
 ・最大速度:583km/h  ・航続距離:1,432km  ・乗員:1名
 ・エンジン:中島『誉』二一型 空冷星型14気筒(1,990hp)
 ・武装:20mm機銃×2、7.7mm機銃×2、250kg爆弾×2
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    | 局地戦闘機なのに、爆撃機迎撃に適してないって一体……
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         | 元々が、軽量な水上機だったからな。
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| そんな紫電の問題を解決するため、胴体部分を思い切って再設計することに。
| 主翼配置も中翼から低翼に変更し、非常に抜本的な改良を施します。
| そして1943年12月に、紫電の改良型――紫電改が完成しました。
| 紫電からの改良点は幾多にものぼり、もはや別の機体に生まれ変わったとも言えるほど。
| 視界の悪さも、エンジン不調も、パキパキ折れる主脚も、紫電改ではちゃんと直っています。
| ここに、「遅すぎた
零戦の後継機」とも言われるほどの戦闘機が完成したんですよ。
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 ・局地戦闘機「紫電改」(N1K2-J)
  局地戦闘機「紫電」に抜本的な改良を施した機体で、大戦末期の本土防空戦に投入される。
  局地戦闘機としての性能は高いとは言えず、むしろ強力な格闘戦機として活躍。
  最後の最後にアメリカ軍を驚かせたが、ほとんど戦局には影響がなかった。

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    | おお、すごいじゃないか!!
    | ……って、局地戦闘機なのに零戦の後継機?
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         | 紫電の解説でも言った通り、紫電改の飛行特性も零戦に似ていた。
         | すなわち空戦性能に優れ、高々度での戦闘は得意じゃない――
         | 後にも述べるが、迎撃用途の局地戦闘機としては問題があったのもまた事実。
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| 紫電改は、強風の時代から受け継いだ自動空戦フラップというのを搭載しています。
| 主翼後方に沿うように備わっているフラップという部分が、機体の速度やGに応じて自動調整される仕組み。
| これにより運動性能は高い――と、一応のところは言われています。
| 武装は20mm機銃×4と雷電と同じで、かなり強力ですね。
| また防弾タンクや防弾ガラス、自動消火装置などが搭載されて防御面でもなかなか優秀。
| 問題点は、登場が余りにも遅かったこと。さらに爆撃で生産工場がやられ、総生産数は極めて少ないです。
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 局地戦闘機「紫電改」(二一型)
 ・全長:9.376m  ・全幅:11.99m  ・全高:3.96m  ・全備重量:3,800kg
 ・最大速度:594km/h  ・航続距離:1,715km  ・乗員:1名
 ・エンジン:中島『誉』二一型 空冷星型14気筒(1,990hp)
 ・武装:20mm機銃×4、250kg爆弾×2
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    | その言い方は、自動空戦フラップについては意見が分かれるってことか?
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         | エースパイロットの何人かは、あんまり役に立たなかったと証言しているんだ。
         | まあそれは、自動空戦フラップに頼らない力量を持ち合わせた一部の熟練者のみの意見かも。
         | パイロットの好みも関わる問題なんで、その評価は難しいんだ。
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| とは言え……前述の通り、高々度での性能はそこまで優れているとは言えませんでした。
| 上昇力では雷電の方が上であり、B-29を相手にするにはなかなか厳しかったようですね。
| 高々度における性能不足のため、生産中止の声も上がった雷電が生き延びたという事情もあります。
| しかし空戦能力はかなり高く、末期の本土防空戦において敵戦闘機の撃墜に活躍。
| なんか局地戦闘機というより、零戦の応急処置的後継機って言った方が合ってるかもしれませんね。
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 「ライトフィールドで紫電改に乗って、アメリカ空軍の戦闘機と空戦の演習をやってみた。
  どのアメリカ機も紫電改には勝てなかった」
                                          某アメリカ空軍中佐

 「B-29に対する有効な迎撃機としては高空性能が不十分であった」
                                   スミソニアン博物館による解説
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    | 局地戦闘機としては、正直なところ微妙なのか……
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         | それでも、傑作機であることは間違いない。
         | 当初の開発意図とは違ってしまった、というだけの話だ。
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| この紫電改が配備された部隊で有名なのは、なんといっても第三四三海軍航空隊――通称「剣」部隊です。
| 航空参謀の源田実大佐が、各地からエースパイロットを集めて発足させた迎撃部隊ですね。
| この「剣」部隊に最新鋭の紫電改を集中配備し、さらに特別改良した高品質の無線機を搭載。
| 今まで日本軍が全く省みなかった編隊での航空戦術を実行した、非常にユニークな部隊。
| 開隊したのは1945年2月と、まさに末期的な情勢でのスタートでした。
| すっかり勝った気でいるアメリカ機を教育してやるため、日本の精鋭パイロット達が立ち上がったんです。
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    | すげぇ! 最強クラスのエースパイロットと、最強クラスの機体を集めた部隊じゃないか!
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         | こういうのが結成されるのは、どこの国でも敗戦間近だったりするんだがな。
         | またエースパイロットばかりを集めたというのも過大宣伝という見方の方が、現在では主流。
         | 確かにエースパイロットがゴロゴロしていたが、一般のパイロットも多く所属していた。
         | エースを選りすぐった最強部隊というのは、明らかに言い過ぎだ。
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| そんな「剣」部隊の伝説的戦闘が、1945年3月19日に行われた松山上空の空中戦です。
| F6F「ヘルキャット」110機とF4U「コルセア」76機からなる大編隊が松山に来襲。
| そのうち120機と、迎撃に上がった「剣」部隊の紫電改56機が大規模な空中戦を展開したんです。
| その結果、敵戦闘機48機と爆撃機4機を撃墜、こちらの被害は紫電改15機という結果になりました。
| ――ただしこれ、日本側の記録なんですがね。
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    | こういうのは、敵側の記録とも合わせて見ないといけないよな。
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         | アメリカ側の記録によれば、この空戦で戦闘機14機が撃墜されたということになっている。
         | そして、撃墜した紫電改の数は50機――この通り、全く一致していない。
         | どっちもどっちだが、お互いに過大戦果であることは間違いないだろう。
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| とは言え、この空戦でアメリカ軍が度肝を抜かれたというのは紛れもない事実です。
| 「九州北部に練度の高い航空部隊を確認、注意せよ」という米軍の内部通達も確かに存在。
| そういうわけで、「剣」部隊の活躍全てが捏造というわけでもないようですね。
| なお紫電改とは書類上、紫電の改良タイプの一つ。機種としては同じということになっています。
| よってその型式も、正式には紫電二一型とされているんですよ。
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 ・一一型(N1K1-J):初期型。
 ・一一甲型(N1K1-Ja):7.7mm機銃を撤廃し、20mm機銃2挺を追加したタイプ。
 ・一一乙型(N1K1-Jb):20mm機銃2挺の搭載方式を変更したタイプで、翼下から翼内へ移動している。
 ・一一丙型(N1K1-Jc):爆撃機能を向上させたタイプで、試作のみ。
 ・二一型(N1K2-J):機体設計そのものに大幅な変更を加えた改良型。いわゆる紫電改。
 ・二一甲型(N1K2-Ja):爆撃機能を向上させたタイプ。
 ・二一練習戦闘機型(N1K2-K):複座にした練習機タイプで、試作のみ。
 ・三一型(N1K3-J):二一甲型に13mm機銃2挺を追加したタイプで、試作のみ。
 ・四一型(N1K3-A):三一型の艦上機型で、試作のみ。
 ・三二型(N1K4-J):三一型のエンジン換装タイプで、試作のみ。
 ・四二型(N1K4-A):三二型の艦上機型で、試作のみ。
 ・五三型(N1K5-J):エンジン換装タイプで、試作のみ。
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    | 紫電改の改良型は、ほとんど試作で終わってるな。
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         | 末期的戦況に、もはや余裕はなかったんだよ。
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| そんな紫電改ですが……日本海軍戦闘機の水準で言えば、かなりの優良機と言えるでしょう。
| しかし当時の世界水準で言えば、アメリカ機やイギリス機、ドイツ機などとは比較もできない有様。
| 末期に一矢を報いただけで、大局に貢献できたとも決して言えません。
| 結局のところ最後まで出現しなかった烈風に代わり、その後継的役割を果たした――
| そのインパクトは極めて大きい伝説的機体ですが、実際の評価はちょっと難しい戦闘機が紫電改なんです。
| そういうわけで、局地戦闘機の講義を終わりましょうか。
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    | いつも最後は、辛口で締めくくるんだな。
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         | やっぱり、他国の機体と比較するとなぁ……
         | 紫電改を世界レベルの傑作機とは、どう考えても言えそうにない。
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