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| さて、今回は零式艦上戦闘機――いわゆる零戦について講義しましょう。
| 日中戦争の途中から太平洋戦争の終結まで戦い抜いた、まさに日本戦闘機の代表格。
| 初期においては中国軍機やアメリカ機を圧倒し、恐れられた脅威の傑作戦闘機。
| そして戦争後半は、もはや単なるやられ役と化していった悲劇の機体――
| その評価は紆余曲折の、日本において最も有名な戦闘機です。
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    | その有名さは、あらためて言うまでもないよな。
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         | 太平洋戦争前半では脅威の能力を示し、大戦後半は落とされるだけの存在となってしまった。
         | 日本海軍の凋落を如実に体現した戦闘機が、この零戦なんだ。
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| さて……1936年に、三菱製の名戦闘機である九六式艦上戦闘機が制式採用されました。
| 前回の講義でもちょこっと触れましたが、海軍はこの九六艦戦に20mm機銃を搭載した実験型を試作。
| それがなかなか上手くいったので、次期主力戦闘機の搭載武器は20mm機銃を、という方向になります。
| そして翌年の1937年には、海軍は三菱と中島に、次期艦上戦闘機の試作を命じました。
| これが十二試艦上戦闘機計画、あの超優良機である九六艦戦の後を継ぐ機体の開発計画なんです。
| この計画によって開発された十二試艦戦――これこそが、後の零戦ですね。
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 ・九六式艦上戦闘機(A5M)
  日本初の全金属製戦闘機で、艦上戦闘機で初めて単葉を採用した機体。
  当初はエンジン開発に苦労したものの、問題が解決した後は抜群の空戦能力を誇った。
  日中戦争で大活躍した傑作戦闘機で、零戦の前進的存在である。
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    | 九六艦戦がデビューした翌年に、早くも次期戦闘機開発計画スタートって……早過ぎない?
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         | だから、兵器の開発には時間が掛かるんだって。
         | モノにもよるが、新型がデビューした頃には後継の開発をスタートしないと間に合わないこともある。
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| この十二試艦上戦闘機計画における海軍の要求仕様は、三菱・中島の両メーカーを唖然とさせるものでした。
| まず、速度や上昇力は現在主力の九六艦戦を上回ること。これはまあ後継機ということで当然です。
| さらに、運動性は九六艦戦と同等であること。これを実現するのは、かなり大変です。
| そして前述の通り20mm機銃を追加で搭載すること――これまでの海軍戦闘機は7.7mm機銃搭載でした。
| 20mm機銃の搭載で攻撃力が大幅にアップすると同時に、重量もかなりアップするでしょう。
| これは、軽量な九六艦戦と同等の運動性を維持するのは難しくなることを意味します。
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    | 当然ながら、ボディが重くなれば運動性は鈍るよな。
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         | 速度性能もアップさせなきゃいけないわけだから、より強力なエンジンが必要だ。
         | しかし強力なエンジンはそれだけ重く、搭載すれば機体重量は増加。
         | 結果的に速度を九六艦戦よりもアップさせようとすると、機体重量は上がってしまう。
         | だから運動性は、九六艦戦に劣ってしまう――そういうジレンマは避けられない。
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| さらに――それに加えて、海軍はとんでもない要求を突き付けてきました。
| なんと六時間という長時間、滞空できるようにせよと命じたのです。
| 艦上戦闘機とは空母の周囲を飛行し、接近してくる敵機を叩き落として母艦を守るための航空機。
| 滞空時間が増加すれば、その任務に就ける時間も長くなる――空母の防御力も上がるという論理ですね。
| しかし滞空時間(≒航続距離)をアップさせるということは、つまり燃料搭載量を増やすということ。
| またしても重量が増加するため、軽快な運動性との両立は格段に難しくなってきます。
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    | 当然ながら、ボディが重くなれば運動性は鈍るよな……って、海軍も無茶言い過ぎじゃないか。
    | 相反する特性を、同時に満たせと言っているんだから。
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         | これら要求性能は一括して出されたのではなく、海軍側が仕様を追加、変更していった結果なんだ。
         | この十二試艦上戦闘機計画発案中に、大陸では日中戦争が始まっている。
         | 前線から新しい戦訓が伝わってくると、海軍側も欲しい能力をまとめるのに手間取ったんだよ。
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| 20mm機銃搭載、滞空時間六時間、それでいて九六艦戦と同等の運動性能に、それ以上の速度性能――
| 中島はこれを「夢のような戦闘機」とみなし、物理的に不可能であると断じて開発を辞退してしまいました。
| こういうわけで、十二試艦上戦闘機計画は三菱が一社で進めるということになったんですが――
| 三菱とて、海軍の無茶過ぎる要求に頭を悩ましたという点では違いはありません。
| 何度も海軍に要求性能の緩和を懇願したんですが、海軍はそれを撥ね付けました。
| こうして九六艦戦の生みの親である堀越二郎氏が責任者となり、十二試艦戦の開発が始まったんです。
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    | それは、どう考えても苦難の道だよな。
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         | これ、間違いなくプロジェクトXで扱えるレベルの素材。
         | それくらい苦難で困難に満ちた道だった。
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| 機体重量の増加が避けられないにもかかわらず、良好な運動性能を維持しないといけない――
| その矛盾を何とかするには、なんとしても機体を軽量化しなければいけませんでした。
| 20mm機銃、デカい燃料タンクの搭載は、要求性能実現のために避けられません。
| それ以外のところを、堀越氏は徹底的にスリム化させるという事にしたんです。
| 重量性が増すようなものは全て外し、最低限の強度を保つレベルを保持しつつ軽量化。
| ボルトやネジの一本一本にまでグラム単位の軽量化にこだわった設計は、まさに職人芸と言えるでしょう。
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    | なんと。
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         | 超々ジュラルミンという新素材を採用し、この軽量化は徹底したものとなった。
         | フレームには肉抜き穴を開け、とにかく重量を減らすことに専念。
         | それに加えて、空気抵抗を極限まで抑えた機体外形。
         | そんなに優れたエンジンではないにも関わらず、卓越した飛行性能を実現した秘訣なんだ。
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| そして2年後の1939年3月には、なんとか十二試艦戦の試作一号機が完成しました。
| 海軍が審査したところ、大部分の性能は海軍側の要求をクリア。
| 機体重量の問題もあり、さすがに水平旋回能力は九六艦戦に劣ったんですが――
| 加速力は圧倒的優位であり、それを生かせば九六艦戦に圧勝することが可能であることも判明。
| 操縦性に優れ、視界も良く、着陸も操縦もかなり容易と、非常に扱いやすい点も見逃せません。
| 物理的に実現不可能とまで言われた十二試艦戦は、極めて優れた戦闘機として完成したんです。
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    | おお、すげぇ!
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         | この頃には、日中戦争が熾烈化。
         | 大陸では、先輩の九六艦戦が大活躍しているという状況だった。
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| とは言え、まだまだ試作段階であり、当面の所クリアしなければならない問題は多い状況。
| 機体軽量に専念した結果、耐久性などに問題が多く生じていたのです。
| 1940年3月には、試作二号機が機体強度の問題で空中分解を起こすという事故が起きてしまいました。
| テストパイロットはこの事故で死亡し、関係者に深い衝撃を投げ掛けます。
| 後の話になりますが、翌年の1941年4月には二度目の分解事故を起こし、パイロットが殉職。
| この時期はすでに零戦として量産されていただけに、関係者はまたもや大きなショックを受けました。
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    | こういう犠牲の上で、航空機ってのは初期不良が取り除かれていくんだな。
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         | 特に機体の軽量化にこだわった零戦は、強度の問題が初期のネックになった。
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| 試作一号機および二号機は、自社製エンジンの『瑞星』一三型を搭載していたんですが……
| 三号機からは、『瑞星』一三型より強力な中島製エンジン『栄』一二型を搭載。
| 他社製のエンジンを搭載するというのは三菱にとって嬉しくありませんが、海軍の意向なので仕方ありません。
| そして『栄』一二型にしても出力は940馬力で、海外標準と比べても平均より僅かに下というレベル。
| 零戦に乗せられたエンジンは、決して強力というわけではなかったんです。
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    | やっぱり、日本のエンジン技術は低かったのか。
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         | 1000馬力レベルとなると、いちおう欧米と張り合える水準のエンジンがある。
         | しかしそれより上となると、もう欧米の背中を見るのみだったのが現実だ。
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| こうして、十二試艦戦の初期生産がスローペースで始まったんですが……
| そんな1939年10月、日本海軍にとって衝撃の出来事が起きました。
| 大陸における主力航空基地である漢口基地が、中国軍航空隊の急襲を受けたんです。
| この時に襲ってきた爆撃機は、ソ連製の高速爆撃機であるツポレフSB-2。
| 当時の日本海軍においてはかなりの強敵で、迎撃は非常に困難だったんですよ。
| この襲撃により漢口基地は大打撃を受け、航空奇襲の対策を練らなければいけなくなりました。
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    | そんなの、現役の九六艦戦でサクッと落とせばいいんじゃないのか?
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         | 九六艦戦はあくまで空母で運用するための戦闘機であり、非常に軽量なんだ。
         | だから同ウェイトの敵戦闘機狩りは得意でも、ウェイトに勝る敵爆撃機の迎撃は苦手。
         | 攻撃力が不足しているし、より優れた加速性能も欲しいところだな。
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| 日本海軍は地上基地を多く要する海軍であり、その基地を守るための迎撃用戦闘機が必要――
| そうした戦訓を、この漢口基地襲撃の一件で海軍は思い知ったんです。
| こうして、基地防衛専門の戦闘機である局地戦闘機開発が始まるわけですが――それは、また別の話。
| その完成までのピンチヒッター的機体を、日本海軍は一機でも多く必要としていました。
| そこで、本土において初期生産が始まったばかりという十二試艦戦にも白羽の矢が立ったんです。
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    | でも、この段階じゃまだ試作機だろ?
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         | それでも必要なぐらい、前線じゃせっぱ詰まってたんだよ。
         | 爆撃機の襲撃を受けたのが、よっぽどショックだったんだ。
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| そういうわけで、まだ制式採用される前の十二試艦戦が前線の中国に送られることになりました。
| 最初に送られたのが1940年7月、この時点で完成していた10機が前線部隊の手に渡ったんです。
| それと同時に、十二試艦戦の最初の40機までは臨時の局地戦闘機として生産することが決定。
| 空母部隊には回されず、前線の基地防衛用戦闘機として漢口基地などに送られたんですよ。
| これとほぼ同時期の7月24日には、十二試艦戦は次期艦上戦闘機として制式採用が決定。
| その名も、零式艦上戦闘機――いよいよ、零戦の本格デビューとなります。
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 ・零式艦上戦闘機(A6M)
  1940年に採用された艦上戦闘機で、旧日本軍を代表する傑作機。
  九六式艦上戦闘機の後継で、脅威の運動性能と強力な20mm機銃を有する。
  太平洋戦争初期の戦闘では連合軍を圧倒するも、中盤にはその弱点を露呈。
  戦争後半には旧式化が明らかなものとなり、特攻の道を辿っていった。
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    | 制式採用される前から、零戦は前線に送られたんだな。
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         | そして到着直後くらいに制式採用が決定し、零式艦上戦闘機と名乗ることになったんだ。
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| そして大陸に派遣された十二試艦戦ですが――その頃の前線では、別の問題で悩んでいました。
| 中国軍主力や政府は奥地へ引きこもってしまったので、日本軍は重慶などに戦略爆撃を繰り返したんです。
| その際に用いられたのが九六式陸上攻撃機なんですが、その航続距離は長大。
| 主力戦闘機の九六艦戦では付いて行けないので護衛が果たせず、九六陸攻は護衛ナシで突っ込むことに。
| そうすると敵地上空で敵戦闘機に襲われ、九六陸攻の編隊は爆撃のたびに大損害を出していました。
| なんとかならないか――そう思ったところで目に付いたのが、長大な航続力を誇る零戦だったんです。
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 ・九六式陸上攻撃機(G3M)
  1935年に完成した陸上攻撃機で、日中戦争や太平洋戦祖初期に活躍。
  当時としては極めて優れた速度と航続力を誇り、緒戦の快勝に大きく貢献する。
  その一方で後継の一式陸上攻撃機にも通じる脆さを見せていた。
  太平洋戦争初期から旧式化の兆しを見せ、一式陸攻に任を譲って前線から退いていく。

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    | 基地防衛のために前線に送られたのに、着いた先では別の任務が待っていたわけだな。
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         | 九六陸攻単独での爆撃が多大な被害を出したため、零戦の要求性能は航続距離が重視された、
         | と誤記されることが多いが――これは、明らかに因果関係がおかしい。
         | その戦訓を得る遥か前から、航続距離は重視されていたんだ。
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| そして訓練を繰り返した後、1940年8月19日にいよいよ零戦は初陣を迎えます。
| 12機の零戦が54機の陸上攻撃機を護衛しながら重慶に向かったんですが――
| この時の出撃では敵に会うことなく、そのまま帰還することになったんですよ。
| 翌日の8月20日も同様に12機が攻撃隊の護衛に就いたのですが、またも敵とは会いませんでした。
| それから約三週間後の9月12日には通算3回目となる出撃があったのですが、この時も会敵はなし。
| どうも変だな……と思って調べてみると、どうも爆撃前に敵戦闘機は退避しているという事実が発覚します。
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    | なんと。
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         | 九六艦戦の活躍のせいで、日本軍の戦闘機の強力さは中国軍も知っていた。
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| その翌日の9月13日、4回目の出撃となる零戦隊は攻撃隊を護衛。
| そして爆撃が終了し、引き返す――と見せかけ、零戦13機は少し時間をおいて重慶上空に戻ってきます。
| そうすると狙い通り、戻ってきた中国軍戦闘機30機弱の姿がありました。
| そこで零戦13機は、I-15とI-16からなる27機の敵戦闘機部隊に襲い掛かったんです。
| 数の上では2倍以上の劣勢にもかかわらず、敵戦闘機の大半を撃墜。味方の損害はなんとゼロ!
| 初の実戦において、零戦は伝説的とも言える戦果を叩き出したんですよ。
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    | うぉぉ、すげぇ。
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         | この空中戦、日本側の記録では敵機27機を全機撃墜となっている。
         | 中国側の記録では撃墜13機、撃破11機となっているが……ほぼ戦闘不能に陥ったのは確かだ。
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| 以降も零戦は中国大陸において活躍し続け、敵無しと言っていいほどの暴れっぷりを見せ付けます。
| 太平洋戦争が始まるまでに、なんと103機を撃墜、地上撃破が163機という快挙。
| こちらの被害は、地上からの対空砲火による3機だけ――
| これらの数字は資料によって多少の差異はありますが、それでも大差はありません。
| しかし「日本軍に脅威の戦闘機現る!」の報は、この時点で米英に正確に伝わることはありませんでした。
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    | なんで? これだけ暴れたのに、アメリカやイギリスは零戦の存在を知らなかったのか?
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         | 中国に派遣されていたアメリカ軍のシェンノート少将は、零戦の脅威を本国に打電している。
         | しかしアメリカはその報告を信用せず、シェンノート少将の単なる責任逃れと判断してしまった。
         | 猿マネの航空技術しかない日本が、そんな優良戦闘機を開発するはずがないと思われたんだ。
         | アメリカが零戦の脅威に気付くのは、太平洋戦争勃発後のこととなる。
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| こうして日中戦争において活躍した零戦は、零式一号艦上戦闘機と呼ばれる初期型でした。
| これは先も述べた通り、局地戦闘機として用いられるべく量産された基地防衛タイプ。
| この初期型の後に、空母での運用を前提とした艦上戦闘機タイプの本格生産に乗り出します。
| それが、主翼を50cmほど折り畳めるようにした、零式一号艦上戦闘機二型と呼ばれるタイプ。
| 後に零式一号艦上戦闘機一一型零式一号艦上戦闘機二型二一型と改称されました。
| この二一型がもっともスタンダードであり、バランスに優れたタイプと言えますね。
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 ・一一型(A6M2a):初期生産型で、日中戦争で局地戦闘機として用いられた。
 ・二一型(A6M2b):両翼を折り畳めるようにし、空母での運用を考慮した本格量産タイプ。

 零式艦上戦闘機(二一型)
 ・全長:9.05m  ・全幅:12.00m  ・全高:3.525m  ・全備重量:2,410kg
 ・最大速度:533km/h  ・航続距離:2222km(増槽無し)  ・乗員:1名
 ・エンジン:中島『栄』一二型 空冷星型14気筒(940hp)×1
 ・武装:九九式一号20mm機銃×2、九七式7.7mm機銃×2

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    | やはり美しいな……
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         | まさに芸術。
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| 今まで見てきた通り、零式艦上戦闘機とはまさに究極の軽戦闘機。
| 防御を全て犠牲にした身軽さをもって、強力な攻撃で敵機と渡り合う攻撃一辺倒の格闘戦闘機でした。
| この零戦の特徴は大きな長所は三つ、これまでの繰り返しになりますが……
| 20mm機銃という強力な武装、長大な航続性能、異様なまでの運動性を生かした空戦性能。
| 短所は防御性能皆無、そして急降下性能の貧弱さ。また無線設備にも問題が。
| それは、まさに強力な太刀を振り回す裸のサムライ。その長所と短所はまさに表裏一体だったんです。
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 零戦の長所
 ・強力な20mm機銃
 ・長大な航続性能
 ・卓越した運動性能

 零戦の短所
 ・防御装備が皆無(後期型を除く)
 ・急降下性能の貧弱さ
 ・劣悪な無線設備
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    | 零戦の長所と短所は、光と影のごとく表裏一体だったんだな。
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         | だから短所を直そうとすれば、長所の方にまで悪影響が出てくるんだ。
         | 以後の改良型も、迷走を繰り返すことになってしまうんだよ。
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| まず……零戦に備え付けられた20mm機銃は、当時の戦闘機の装備としては非常に強力。
| その炸裂弾は強力で、敵機を撃ち抜くというよりも吹っ飛ばしてしまいます。
| ただ20mm機銃は携帯弾数の少なさや、7.7mm機銃との弾道の違いなどの欠点もありました。
| 初速が遅く、弾道が下がり気味になって「ションベン弾」と揶揄されたことも多いです。
| しかし、防御性能の高いB-17やB-24などのアメリカ爆撃機を次々に葬ったのも20mm機銃。
| やはり20mm機銃は、零戦になくてはならない兵装だったと言えるでしょう。
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 零戦の長所
 ・強力な20mm機銃
 ・長大な航続性能
 ・卓越した運動性能
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    | 評判は、さほど良くもないんだな……
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         | この20mm機銃の悪評判だが、初期のイメージが後々にまで響いたという見方もある。
         | 最初は色々と問題のあった20mm機銃だが、改良によって良いものになっていくんだ。
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| 当時の外国戦闘機の二倍から三倍に及ぶという航続距離の長大さも、零戦の特徴の一つです。
| そもそも開発時に航続距離を重視した理由は、より長く母艦の真上を飛んでいられるようにしたかったから。
| 艦上戦闘機の滞空時間とは、すなわち母艦を守っていられる時間そのものです。
| それが長くなればなるほど、大きな目で見た空母防御力もアップする――そういう理屈ですね。
| 後に広大な太平洋で戦闘を行うにあたり、そうした開発段階の意図を大きく超えた恩恵をもたらしました。
| なお俗説とは異なり、攻撃機や爆撃機への護衛は、少なくとも開発段階では検討されていません。
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 零戦の長所
 ・強力な20mm機銃
 ・長大な航続性能
 ・卓越した運動性能
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    | 攻撃機や爆撃機への護衛は検討されていない……例の、九六陸攻護衛のカラミだな。
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         | 九六陸攻の渡洋爆撃を護衛するために、航続能力を重視したっていうのは誤解。
         | 零戦に長大な航続能力を求めた理由はただ一つ、空母の真上を飛ぶ時間を長くしたかったから。
         | そのための長大な航続距離が、様々な任務に対応できる万能性をもたらしたんだ。
         | ……上層部が、無茶な作戦を零戦に押し付ける根拠となってしまった一面もあるが。
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| そして、卓越した運動性能というのが最大の特徴とも言えるでしょう。
| 零戦に搭載されたエンジンのパワーはそう優れているとも言えず、1000馬力という数値は世界標準以下。
| それにも関わらず、零戦は脅威の速度性能と空戦性能を実現させていました。
| 特に旋回性能は非常に優れ、近接格闘戦ではまさに無敵。戦争初期においては米軍を悩ませています。
| その卓越した運動性能の秘密は、前述した通りの徹底的な機体軽量化。
| 強力な攻撃力と運動性を活かした接近戦で敵を撃破する、非常にサムライチックな戦闘機でした。
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 零戦の長所
 ・強力な20mm機銃
 ・長大な航続性能
 ・卓越した運動性能
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    | それゆえ、格闘戦機の究極と言われるのか。
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         | 零戦は格闘戦機の行着く先でもあり、格闘戦機の袋小路でもあり、格闘戦機の末路でもあった。
         | 世界的な流れから見れば、格闘戦機という存在そのものは化石になりつつあったんだ。
         | 零戦の活躍と凋落は、そんな一面をも如実に反映していたんだよ。
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| そして短所ですが……防弾製の欠如は、零戦の欠点の一つとしてあまりにも有名です。
| なぜ防弾がいっさい考慮されなかったか――そもそもの理由は、要求仕様に記載されていなかったから。
| 当時の日本におけるエンジン技術から考えて、防弾装備なんて重いものを搭載するのは不可能。
| いくら頑張っても中途半端な防弾装備にならざるを得ず、結局は敵の攻撃を防ぎきれなかったということにも。
| それならいっそ防弾装備を撤廃して、運動性能に専念した方が合理的ではないか――そういう判断です。
| その根本には、エンジンのパワー不足という大きな問題点があったと言えますね。
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 零戦の短所
 ・防御装備が皆無(後期型を除く)
 ・急降下性能の貧弱さ
 ・劣悪な無線設備
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    | 結局は、エンジンの改良で解決していく問題だったんだな。
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         | しかしそのエンジンが、まさに日本航空機にとっての鬼門だった。
         | 開戦後は欧米の機体と比べて防弾装備が劣っているのを痛感し、色々と足掻くんだがな……
         | 結果的に強力なエンジンが生み出せず、迷走していったんだ。
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| 急降下性能の貧弱さもまた、その身軽さの代償でした。
| 機体を極限までスリム化させているので、急激な下降には機体が耐えきれなかったんですよ。
| また通信能力の低さは、これまた軽量化のために最小の通信機しか載せられなかったというのもありますね。
| そもそも日本側の通信機は劣悪で、零戦だけの問題でもなかったんですが……
| 無線機軽視の風潮とか、この辺は零戦という機体に対しての問題にとどまりません。
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 零戦の短所
 ・防御装備が皆無(後期型を除く)
 ・急降下性能の貧弱さ
 ・劣悪な無線設備
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    | どれもこれも、運動性獲得の代償みたいなもんだな。
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         | アメリカ戦闘機の場合、無線機が壊れた機体は「故障機」として飛行が認められなかった。
         | 零戦は、邪魔だという理由でパイロットが無線機やアンテナを取り外したケースもあったぐらい。
         | 無線機そのものがボロく、まともに使えないという要因も大きかったが……
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| 以上が、零戦の欠点であったわけですが……これは、完成した機体の話。
| 完成する前――つまり、その生産にも大きな問題があります。
| 生産性が悪く、熟練工の巧みのワザを必要とし、造るのに非常に手間が掛かったんですね。
| これはまあ、工業力の問題で仕方がないのかもしれませんが……
| そんな戦闘機が主力なのに、熟練工を容赦なく徴兵していったというのは意味不明。
| おかげで生産現場が荒れて、生産性や品質の低下は著しくなりました。
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 零戦の短所
 ・防御装備が皆無(後期型を除く)
 ・急降下性能の貧弱さ
 ・劣悪な無線設備
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    | ちょっと待て、熟練工も徴兵したのか? 日本軍、いったい何を考えてんだ?
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         | 非合理、ここに極めたり! これこそが大和魂よ!!
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| まあ日本軍は非合理がウリですので、それは置いといて……
| こうした極端な性能を抱えた零戦ですが、登場当初は間違いなく優良な戦闘機でした。
| この零戦の座席を一つ増やして、複座型にした練習タイプが零式練習戦闘機。
| フロートを搭載して、水上機型に改造したのが二式水上戦闘機
| 詳しくはそれぞれ別の講義で解説予定ですが、こうした派生型も生まれています。
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    | 非合理がウリって……もっと良いものをウリにしてくれよ。
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         | 二式水上戦闘機なんかは、世界で最も成功した水上戦闘機と呼んで差し支えない。
         | まあ、そもそも水上戦闘機なんてのに本気で取り組んだのは日本海軍くらいなんだが。
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| ここで余談ですが……「ゼロ戦」という呼称は戦争中には使われなかったという主張があります。
| 零式艦上戦闘機の略称は「れいせん」で、「ゼロ戦」とは戦後に広まった略称ということですが……
| なんとももっともらしいんですが、これ実は完全に誤った俗説。
| 坂井三郎氏などエースパイロットの記述や、当時の新聞でも「ゼロ戦」と表記。
| 「ゼロせん」と「れいせん」両方が使われていましたが、「ゼロせん」の方が優勢だったようですね。
| 「ゼロ戦」という名は間違っている説は、完全に間違っています。
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    | いったい、誰が言い出したんだろうな。
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         | 上層部の人間は「れいせん」と呼び、現場の人間は「ゼロせん」と呼ぶ傾向があったようだ。
         | あくまで傾向で、必ずしもそうだとは言い切れないがな。
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| さて、戦歴の話に戻りましょう。太平洋戦争の幕開けを告げた真珠湾攻撃でも、零戦は活躍しました。
| 「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「翔鶴」から飛び立った零戦は合計78機。
| 零戦の役割は迎撃に上がってくる敵戦闘機を叩き落とすことだったんですが……
| 奇襲があまりにも上手く決まり、ちらほら上がってくるP-40数機を撃墜した程度。
| ほとんどの敵戦闘機は上がってくる気配を見せないため、飛行場に機銃掃射を食らわせています。
| こうして232機のアメリカ機が地上で失われ、こちらも対空砲火で9機が撃墜されてしまいました。
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    | 零戦、真珠湾で大活躍したんだな。
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         | 日中戦争を体験していたので、日本側パイロットの技能も極めて高かった。
         | 序盤の無敵振りは、零戦の性能だけでなくパイロットの練度が高かったことも大きい。
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| 真珠湾攻撃と同時進行する形で、日本軍はアメリカの支配下にあるフィリピンにも航空戦を挑みました。
| 百機近くもの零戦が、陸攻隊を護衛しながらクラーク飛行場、イバ飛行場に向かいます。
| そのうち約半数は、なんと遠く離れた台湾から飛び立った部隊。
| 長大な航続力を誇る零戦だからこそできる芸当だったんですよ。
| ここで出会ったアメリカ戦闘機P-35やP-40をほぼ一蹴、ほとんどを撃墜してしまいました。
| 結果的にフィリピンの敵飛行場は壊滅し、作戦は大成功を収めます。
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    | まさに大活躍……!
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         | 指揮官のマッカーサーは、まさか零戦が台湾からはるばる飛んできたとは思いもよらなかった。
         | 周辺の海域で、居もしない日本空母を必死で探し回ったとか。
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| その後も太平洋やインド洋で行われた空戦で、零戦は次々と米英機を撃墜。
| 特に正面から迎え撃たねばならないアメリカのショックは大きいものでした。
| 「積乱雲か零戦に遭遇したら、任務を放棄して良い」という上部からの布告まで出てしまいうほど。
| 大戦初期の零戦とアメリカ機とのキルレシオは1:6、こちらが1機落ちるまでに敵機を6機落とすという計算。
| 1942年6月、ミッドウェイでの大敗においても、零戦はかなりの数の敵機を撃墜しました。
| この時期あたりまでは、零戦の不敗神話は健在だったんですね……
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    | ……ということは、この後あたりから風向きが変わってくるということか。
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         | 敵側をして、「神秘的な空戦性能」とまで言われたんだ。
         | アメリカ議会において、「零戦対策はできているのか!」という質問が飛び出すほど。
         | 太平洋戦争における最初の半年は、零戦が最も輝いていた時期だ。
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| そんな情勢の中で、とある事件が起きてしまいました。
| 1942年6月、敵地であるアリューシャン列島に1機の零戦が不時着します。
| こういう場合、パイロットは秘密保持のために乗機を始末するということになっていたんですが……
| この機のパイロットである古賀飛曹は、おそらく着陸時に後部を強打して亡くなってしまいました。
| こうして、この零戦はほぼ無傷のままにアメリカ軍の手に渡ってしまったんです。
| 彼らは徹底的にこの零戦を研究し、その長所と――そして、表裏一体である弱点が明らかになりました。
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 零戦の短所
 ・防御装備が皆無(後期型を除く)
 ・急降下性能の貧弱さ
 ・劣悪な無線設備
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    | こういう一面特化型は、対策が整えられると脆いんだよな……
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         | 特に零戦は、得意なことと苦手なことが余りにもはっきりし過ぎていたんだ。
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| そしてアメリカは、「サッチ・ウィーブ」という零戦の弱点を踏まえた戦法を編み出しました。
| それは零戦の上空から2機1組で攻撃を仕掛け、そのまま離脱。再び高度をとって攻撃を仕掛けるというもの。
| 高低差に弱く、防弾性が欠如している零戦にとって、この反復される一撃離脱戦法は非常にキツいものでした。
| 今まではカモ同然であったF4F「ワイルドキャット」も、この戦術を取り始めてからは強敵に。
| 1942年後半になると、不敗神話もいよいよ怪しくなってきたんです。
| なおF4Fや後継のF6Fは「グラマン戦闘機」と呼ばれ、零戦パイロット達の好敵手といった扱いですね。
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 ・F4F「ワイルドキャット」
  零戦とほぼ同時期に採用されたアメリカの艦上戦闘機で、零戦のライバル的存在。
  エンジン出力や防御力は零戦に勝るが、運動性能で劣り、太平洋戦争序盤は零戦に圧倒された。
  しかしガダルカナル攻防戦あたりに採用された「サッチ・ウィーブ」戦法により、零戦と互角以上の戦いが可能に。
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    | ……ってことは、零戦の圧倒的優位は一年も持たなかったんだな。
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         | 「1対1の戦いでは零戦に負けるが、2機のF4Fならば10機の零戦にも勝利する」と言われた。
         | 零戦は単独だと強いが、連携は悪くチーム戦だと脆さを見せたんだ。
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| そして1942年8月、米軍はガダルカナル島へ進出。この島を巡る攻防戦が始まりました。
| その際、日本海軍側の航空作戦拠点となったのがラバウル基地。
| ここに終結したラバウル航空隊が、ガダルカナル島への航空攻撃を仕掛けることになったんです。
| ここから連日、攻撃隊を護衛した零戦が発進し、連合側の航空機と激戦を繰り広げました。
| 一連の航空戦はラバウル航空戦と呼ばれ、ひたすら消耗を強いられる戦いとなったんです。
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    | 相手は数が多く、その上に弱点を突いた連携攻撃を仕掛けてくるんだから……そりゃ、苦しい戦いだ。
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         | ラバウル基地からガダルカナル島までは、零戦の航続距離をもってしてもギリギリの距離。
         | かといって日本側の能力ではガダルカナルの近くに基地など作れず、ラバウルを使うしかなかった。
         | 往復で六時間以上の道のりで、パイロットの疲労はもはや頂点に。
         | こんなのが連日のように続けば、そりゃパイロットもボロボロになっていくさ。
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| そこから2ヶ月ほど遡った1942年4月頃のことですが、零戦の最新バージョンの生産が始まっていました。
| 1130馬力の出力を出せる『栄』二一型が実用化され、これを零戦に載せようということで新型が生まれたんです。
| 零戦に積まれていた従来の『栄』一二型(940馬力)をこの『栄』二一型に換装し、さらに主翼を改造。
| 主翼の端を50cmほど切り詰めて短くし、空気抵抗を抑えるという改造を行ったんです。
| これによって速度はアップしたんですが、旋回性能は低下。さらに航続距離が大幅に低下してしまいます。
| この新型が零戦三二型なんですが……その前線での評判は、極めて悪いものでした。
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 ・三二型(A6M3):エンジンを『栄』二一型に改修し、主翼を切り詰めてスピードを僅かにアップさせたタイプ。
            しかしスピードの増加分以上に航続性能や旋回性能が落ち、前線からの評判は悪かった。

 零式艦上戦闘機(三二型)
 ・全長:9.06m  ・全幅:11.00m  ・全高:3.57m  ・全備重量:2,544kg
 ・最大速度:545km/h  ・航続距離:1,800km(増槽無し)  ・乗員:1名
 ・エンジン:中島『栄』二一型 空冷星型9気筒(1130hp)×1
 ・武装:九九式一号20mm機銃×2、九七式7.7mm機銃×2

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    | やはり美しいな……
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         | そもそもエンジン出力が190馬力もアップしているのに、速度アップ分はわずか10km/h程度。
         | これは、主翼のいじり方がまずかったとしか思えない。
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| この零戦三二型が前線に届き始めた時期は、ちょうどガダルカナル攻防戦と重なってしまいました。
| 前述の通りラバウル基地からガダルカナルまでは遠く、航続距離の弱体化は致命的だったんです。
| そのタイミングの悪さも相まって、「これは改悪だ!」との声も多く聞こえる有様。
| 零戦三二型はとにかく評判の悪い、改悪と名高いタイプとなってしまいました。
| その生産数も少なく、343機にとどまってしまったんですよ。
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    | せっかくの新型なのに……
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         | 零戦は初期から完成した機体だったんだ、悪い意味で。
         | ちょっといじくるとバランスが崩れ、考え方によっては初期型よりも悪くなってしまうんだ。
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| この三二型のあまりの評判の悪さに、ただちに新しいタイプが開発されることになりました。
| 強化したエンジンはそのままに、主翼形状を二一型と同じものに戻したんですよ。
| これで翼内タンクの大きさが元に戻り、航続距離はかなり回復。運動性能も持ち直します。
| この二二型は、いわば二一型への回帰型。その生産は1942年末から始まりました。
| しかし、結局のところガダルカナル攻防戦には間に合わなかったことが悲しいですね。
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 ・二二型(A6M3):三二型の主翼を二一型に戻したタイプで、航続性能と運動性能は回復している。
 ・二二型甲(A6M3a):二二型の20mm機銃を最新型の九九式二号三型に換装したタイプ。

 零式艦上戦闘機(二二型)
 ・全長:9.06m  ・全幅:12.00m  ・全高:3.57m  ・全備重量:2,679kg
 ・最大速度:541km/h  ・乗員:1名
 ・エンジン:中島『栄』二一型 空冷星型9気筒(1130hp)×1
 ・武装:九九式一号20mm機銃×2、九七式7.7mm機銃×2

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    | なんて美しいんだ……俺。
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         | ああ……って、君か!?
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| そして翌年……1943年2月に、日本軍はガダルカナル島から撤退します。
| しかし航空戦は以後も続発し、同年4月の「い」号作戦や11月の「ろ」号作戦でも零戦は苦戦を強いられました。
| 特に「ろ」号作戦は、事実上日本側の惨敗。零戦部隊も壊滅的な打撃を受け、多くの機数を喪失。
| それ以上に、熟練のパイロットを多く失ったというのが後に響いてきます。
| 「ソロモンは零戦の墓場」と言われる所以は、このあたりにありますね。
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 「い」号作戦において、零戦を送り出す山本五十六長官
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    | これ、山本長官が亡くなる10日くらい前の写真になるよな。
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         | ラバウル航空隊や零戦エースについては、また別の講義で。
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| この「ろ」号作戦の頃から、前線には零戦五二型が登場し始めていました。
| これは1943年8月から生産が行われたもので、推力式単排気管という機構が搭載されています。
| そのおかげで最高速度がアップしましたが……重量は増加し、やはり運動性能は落ちてしまいました。
| 結局のところ、重量増加に見合ったエンジンの開発ができなかったというのが致命的ですね。
| この五二型は5000機以上が生産され、零戦の最多生産型です。
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 ・五二型(A6M5):推力式単排気管を取り入れたタイプで、速度性能が向上している。
 ・五二型甲(A6M5a):五二型の20mm機銃を最新型の九九式二号四型に換装したタイプ。
 ・五二型乙(A6M5b):防弾ガラスと自動消火装置を搭載、7.7mm機銃を13.2mm機銃に換装したタイプ。
 ・五二型丙(A6M5c):五二型乙の防弾装備を強化し、13.2mm機銃をもう1挺追加したタイプ。

 零式艦上戦闘機(五二型)
 ・全長:9.12m  ・全幅:11.00m  ・全高:3.57m  ・全備重量:2,733kg
 ・最大速度:565km/h  ・航続距離:1,920km(増槽無し)  ・乗員:1名
 ・エンジン:中島『栄』二一型 空冷星型9気筒(1130hp)×1
 ・武装:九九式二号20mm機銃×2、九七式7.7mm機銃×2

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    | 五二型……? 三二型の次は、四二型じゃないの?
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         | 四二という数字は「しに」に繋がるということで、欠番になったんだ。
         | ……って説が主流だが、実際のところは分からない。
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| 同じく「ろ」号作戦の時期には、アメリカの新鋭戦闘機であるF6F「ヘルキャット」が登場。
| ただでさえ苦しかった零戦ですが、このF6Fによって完全にとどめを刺された感があります。
| 1943年10月6日、23機の零戦が48機のF6Fと初めての対決を行ったんですが――
| その結果……F6Fを6機撃墜したのみで、零戦は全滅。撃墜ないしは撃破され、大敗北を喫しました。
| 2000馬力クラスのエンジンを搭載したF6Fは、もはや零戦と別の世代の戦闘機だったんですよ。
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 ・F6F「ヘルキャット」
  F4F「ワイルドキャット」の後継となる米海軍の新鋭戦闘機。
  旋回能力と航続力以外は全ての点で零戦に勝り、圧倒的な力を見せつけた。
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    | 零戦のエンジンが、約1000馬力級だから……出力は倍か。
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         | 順当な流れならば、このF6Fと同時期に零戦の後継機である烈風がデビューするべきだったんだ。
         | しかし烈風の実用化の目処はなかなか立たず、零戦が老骨にムチ打って戦い続ける事に。
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| 1944年にもなると、初期の勝利を支えた熟練パイロットもほぼ全滅してしまいます。
| もはや飛ぶことが精一杯の新米パイロットばかりで、一度か二度の出撃で帰ってこなくなりました。
| マリアナ沖海戦や台湾沖航空戦では、零戦は悲惨なまでの惨敗を喫してしまいます。
| マリアナ沖海戦に参加した零戦151機のうち、生き残ったのはわずか17機という有様。
| アメリカ側の計算ですが、F6Fの零戦に対するキルレシオは1対19という数字になっていました。
| もはや零戦の不敗神話など、完全に過去の話となっていたんです。
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    | 悲しい話だ……
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         | まあ1対19ってのは、このキルレシオを算出したアメリカでも怪しい数字とされているが。
         | それでも零戦は、もはや落とされるだけの存在となっていたことに変わりはない。
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| そしてフィリピン沖で戦闘が始まる頃、零戦はまともな戦果は期待されなくなっていました。
| そんな中で出現した新型の零戦六三型は、250kg爆弾を吊り下げる装置が取り付けられていたんです。
| その用途は、察しの通り特攻。六三型は、事実上の特攻専用機と言って差し支えありません。
| 搭載しているエンジンの違いで六二型六三型に分類されますが、ほとんど差異はありませんでした。
| レイテ沖海戦以降、零戦が海軍特攻機の代表格となり、次々と敵空母に突っ込んでいった……
| ……と言いたいところですが、特攻後期は敵空母に辿り着く前に落とされていきました。
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 ・五三型(A6M6c):五二型丙のエンジンを水メタノール噴射装置付きの『栄』三一型に換装したタイプ。
            この新機構は不調で、試験のみが行われた。
 ・六二型/六三型(A6M7):爆弾を吊り下げたタイプで、事実上の特攻専用機。
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    | ……………………
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         | この時期はF4U「コルセア」やP-51「マスタング」も、本格的に前線に登場。
         | もはやこの連中は、世代というか次元が違う。
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| いよいよ戦局は末期的状態に陥るに及んで、とうとう1500馬力級のエンジン『金星』六二型が実用化。
| さっそくこれを零戦に載せようとしたのですが――ほとんど試作段階で終戦を迎えてしまいました。
| 戦争全期間の五年において、零戦のエンジン更新は非常に悲しい結果に終わったんです。
| 初期の940馬力である『栄』一二型から1130馬力の『栄』二一型に換装されたのみ――
| これで大戦末期まで戦い抜いたのは、もはや悲劇ともいえるでしょう。
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 ・五四型/六四型(A6M8):『金星』を搭載した試作機だが、2機のみが完成した時点で終戦。
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    | 本当に、エンジンは鬼門だったんだな……
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         | 1000馬力を超える高出力エンジンの技術は、欧米より三年遅れていたと言われる。
         | 戦時において、三年の遅れはもはや致命的だ。
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| そして1945年に日本は無条件降伏。零戦の長い戦いもとうとう終わりを告げます。
| 総括すれば、零戦の最大の不幸は後継機が完成しなかったこと。
| アメリカは次々に新鋭戦闘機を生み出していったのに対し、日本海軍は零戦しかありませんでした。
| 零戦が優位だったのは最初の1年だけで、以後は凋落の一途だったんです。
| 全部で10,430機という脅威の生産数は、これしか作る戦闘機がなかったという悲しい事実の証明。
| 「後継が存在しなかった」という事実に、零戦の悲劇は集約されているといっても良いでしょう。
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 ・艦上戦闘機「烈風」(A7M)
  零戦の後継機となるはずだった戦闘機だが、試作機8機の完成のみで終戦を迎える。
  量産は間に合わずに実戦を経験せず、結果的に幻の戦闘機となってしまった。
  その性能は高いとされるが、現在に至るまで評価は分かれている。
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    | 若い頃はブイブイ言わせた老人を、いつまでも戦い続けさせたみたいなものだったんだな。
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         | 烈風の開発が始まったのは、ガダルカナル戦の時期。
         | 従来の開発ペースだと、ここで後継機が出ている時期だった。
         | そもそも後継機開発のスタート時期が、致命的に遅かったんだ。
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| 改良型をまとめると、ざっとこんなところですか。
| 最良は二一型で、後のバージョンは全て改悪だったという見方もありますが……
| ここら辺は諸説入り乱れ、現在でも評価が難しい状態。
| ただ、主翼を切ったり戻したりといった細かな改修に、リソースを割り振りすぎたのは事実でしょう。
| 設計士達はこういった改良作業に追われ、別の機体や後継機に費やすべき時間が削られました。
| それも、烈風遅延の原因の一つとしなければいけない理由と言えるでしょうね。
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 ・一一型(A6M2a):初期生産型で、日中戦争で局地戦闘機として用いられた。
 ・二一型(A6M2b):両翼を折り畳めるようにし、空母での運用を考慮した本格量産タイプ。
 ・三二型(A6M3):エンジンを『栄』二一型に改修し、主翼を切り詰めてスピードを僅かにアップさせたタイプ。
            しかしスピードの増加分以上に航続性能や旋回性能が落ち、前線からの評判は悪かった。
 ・二二型(A6M3):三二型の主翼を二一型に戻したタイプで、航続性能と運動性能は回復している。
 ・二二型甲(A6M3a):二二型の20mm機銃を最新型の九九式二号三型に換装したタイプ。
 ・五二型(A6M5):推力式単排気管を取り入れたタイプで、速度性能が向上している。
 ・五二型甲(A6M5a):五二型の20mm機銃を最新型の九九式二号四型に換装したタイプ。
 ・五二型乙(A6M5b):防弾ガラスと自動消火装置を搭載、7.7mm機銃を13.2mm機銃に換装したタイプ。
 ・五二型丙(A6M5c):五二型乙の防弾装備を強化し、13.2mm機銃をもう1挺追加したタイプ。
 ・五三型(A6M6c):五二型丙のエンジンを水メタノール噴射装置付きの『栄』三一型に換装したタイプ。
            この新機構は不調で、試験のみが行われた。
 ・六二型/六三型(A6M7):爆弾を吊り下げたタイプで、事実上の特攻専用機。
 ・五四型/六四型(A6M8):『金星』を搭載した試作機だが、2機のみが完成した時点で終戦。
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    | 零戦をいじくり回すより、最新型の開発に取り組んだ方が良かったってことか?
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         | そう単純な話ではないが、多くの設計士が零戦の改良に追われたのもまた事実。
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| 結局のところ、零戦とは何だったのでしょうか?
| 戦争序盤において、防弾性をも犠牲にした空戦性能で無敵を誇ったのが零戦
| 戦争末期において、空戦性能の代償である防弾性の欠如が致命的になったのもまた零戦
| それは能力の取捨選択の問題であり、一概に批判できるものでもないです。
| もし最初から零戦に防弾装備を完備させていたら、ぱっとしない凡庸な戦闘機に仕上がっていたでしょう。
| 優先した能力と、度外視した能力があり、それが時期によって明暗を分けた――そういうことですね。
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    | 「日本軍の人命軽視体質」とか、単純に言える問題じゃないんだな。
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         | とは言え、日本軍は清々しいまでに人命を軽視してたけどな。
         | 零戦に関しては、そう簡単に言えないってだけで。
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