/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| この世には、不思議なことなど何もありません。
| さて、今日も学生達の憑き物を落としてあげましょう。
| 今回講義するのは、戦後すぐ… 1948年に起きた帝銀事件です。
\__  ________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | うわー! エセ古本屋がいるー!!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | わざわざ和装を用意してきたのか…
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 太平洋戦争の終結から3年経ち、まだGHQによる日本統治が続いていた1948年…
| 1月26日、東京の帝国銀行椎名町支店にて事件は起きます。
| なお銀行といってもそんな大きいものではなく、まるで雑貨屋みたいな木造平屋の建物でした。
| 午後3時から3時30分ごろ、1人の身なりの良い紳士がその銀行を訪問。
| その日、支店長は腹痛のために不在で、支店長代理の吉田武次郎が応対します。
\__  ____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (,,゚Д゚)      (,,゚Д゚)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ところで、あのうるさいのは…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 他の学生にもらったモヤットボール。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| その40〜50代の男は坊主頭で、黒いコートを着用、なんとも柔和かつ知的そうな雰囲気だったようです。
| 男は吉田支店長代理に『東京都衛生課並厚生省厚生部醫員 醫學博士 ○○』と書かれた名刺を渡しました。
| この○○の部分には、確かに名前が書かれていたんですが…
| 後の捜査事情聴取でも、吉田支店長代理はその名前を思い出す事が出来なかったんですよ。
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「その男は赤いゴム靴をはき、一見好男子で、知識階級の人のようでありましたが、
 医者としてはちょっと手が無骨であるようであります。
 腕章は白い布で、赤く東京都のマークが捺印され、その下に黒字で達筆に防疫消毒班と書かれてありました」
                                                    吉田支店長代理の供述

「その男の人相は、年齢は44、5歳、丈は5尺3、4寸、頭は坊主狩りで前だけがちょっと伸びており、
 一見柔和な顔で、上品な言葉使いは落ち着いていて物静か、
 医者か消毒係の上に立つような人柄を持った上品な方でした。(中略)
 その犯人の顔は、いまでも浮かび、連れて見せていただけばすぐわかります」
                                             村田正子(行員)の供述
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | つまり、この訪問者が今から講義する事件の犯人なわけか。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | なんとも医者っぽい、物腰柔らかな男だったんだな。
         \_______________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| この医師らしき男は丁寧な物腰で、だいたいこんな内容のことを言います。
| 「近所の相田という家で集団赤痢が発生し、その内の1人がこの銀行に来ていた事が判明しました。
|  そういうわけで、GHQのホーネット中尉率いる防疫隊が間もなく到着します。
|  私は、消毒前に予防薬を飲んでもらう為に、一足先に派遣されてきました」。
\__  ______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 赤痢っていったら、確か胃腸系の伝染病か。
    | 戦後すぐって、いろいろ伝染病が流行したって話を聞いた事があるな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | この頃は、GHQも日本全土の防疫に力を入れてたらしいからな…
         | こういう人の来訪も珍しくなかったんだろうか。
         \___________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そういう訳で、支店の行員達とその妻子、全部で16人が集められます。
| 男はカバンから液状の薬品が入ったビンを取り出すと、行員達+自分の湯呑みにスポイトで分配しました。
| 「GHQより出た強い薬なので、歯に触れると琺瑯質を損傷します。飲み方を教えますから同じようにしてください。
|  薬は2種類あって、最初の薬を飲んだら1分後に次の薬を飲むようにして下さい」。
| そう告げると、男は舌を下唇と歯の間に挟み、巧みに歯には触れないように薬を飲んでみせます。
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 男が、まずその薬品を飲んだのか。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 第1の薬を飲んで1分後に、第2の薬… 妙な手順だな。
         \_______________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 16人の行員やその家族達は、男の飲み方を真似しつつ第1薬を飲んだところ…
| その薬はとても刺激が強く、みるみる胸やのどが苦しくなってきました。
| それに耐えながら、1分後に第2薬を飲む行員達。
| それでも苦しみは治まらず、行員の1人が「うがいに行っていいか?」と男に質問。
| 男はにっこりと笑みを浮かべてうなづいたので、ほぼ全員が争うように台所へ。
\__  _______________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚;)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 笑みを浮かべて…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | こ、怖ッ…!
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| それでも苦しみは治まるどころか、ひどくなる一方。
| そのまま、苦痛にのたうち回る16人の行員達。助けを呼ぼうにも、体が動きません。
| なお男は全員が倒れてもしばらく現場にとどまっていましたが、30分ほどして姿を消したようです。
\__  _____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚;)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なんで、男はしばらく現場にいたんだ…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 何をしてたんだろうな…? 不気味だ…
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして、午後4時… 行員の村田正子は苦しみ悶えながらも、なんとか助けを求めに外へ出ます。
| 道路には、中の様子を不審に思った女学生2人と老婆1人の姿がありました。
| 村田正子は3人に異常を説明し、女学生の1人は素早く派出所に向かいます。
\__  _____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚;)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | まだ、電話なんて普及してないんだよな…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 戦後すぐだからな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 報せを受けた派出所の巡査が銀行に急行してみると、とんでもない惨状が広がっていました。
| 何人もの人間があちこちに倒れ、痙攣、嘔吐を繰り返していた者が少数。ほとんどはもう動きもしません。
| この時点で、もうすでに16人のうち10人が死亡していたんです。
| 仰天した巡査はただちに本署に通報、息があった6人が救急車で病院に運ばれましたが…
| うち2人が病院で死亡。命が助かった者は、16人中たった4人だけでした。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚;)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 4人しか生き残りがいなかったのか…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 12人が犠牲になるなんて… とんでもない事件だ…
         \_____________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 「帝銀にて12人が毒殺」… このニュースは、瞬く間に日本を駆け巡りました。
| 警察の捜査の結果、机の上にあった現金16万3410円と1万7450円の小切手1枚が盗まれていた事が判明。
| しかし、ここで妙な事実に突き当たります。
| 机付近にあった44万円や、鍵の外れていた金庫内の35万円には全く手がついていなかったんですよ。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 気付かなかったんじゃないのか?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 普通、銀行に金を奪いに来たのなら、金庫はチェックするだろ。
         \__________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ここまで冷静沈着に大量虐殺をやってのけた男が、大金のありかに気付かないなんてありえますかね。
| 行員達が苦しみだした後も、犯人はしばらく現場に残っているんですよ…?
| 時間はいくらでもあったし、そんな分かりにくいところに大金を隠していたわけでもないし…
| また、男が使用した湯呑みや支店長代理に渡した名刺は、男が持ち去ったらしく見当たりませんでした。
| 16人が苦しみもがく修羅場の中、自分に繋がる証拠物はきっちり回収していったんですよ。
| ここまで冷徹かつ周到な人間が、金庫には意識が向かなかったと思いますか?
\__  ________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚;)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 行員達が苦しみだした後、笑みさえ見せてたもんな…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | なんか、寒気がしてきた。
         \____________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| また妙な点は、行員達に毒を飲ませる口実の中に登場したホーネット中尉という名前。
| 実は、GHQの防疫関係者に該当人物の存在が発覚。つまり、人名自体はでっち上げじゃなかったんです。
| さらに相田家というのも実在し、赤痢ではありませんでしたがチフスの疑いで家族が入院。
| GHQの防疫官がわざわざ出向くという事態になっていたんですよ。
| また、捜査が進むにつれ、犯人の毒物に対する知識の深さもあらわになってきました。
| 犠牲者の胃からは、容易には手に入らないはずの青酸化合物が検出されたんです。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 青酸化合物…? 色々あるじゃないか。青酸カリ? 青酸ナトリウム?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | この時点では特定できなかったんだろ? ってか、オマエやけに詳しいな。
         \_______________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| さて、第1薬は行員達が全て飲んでしまったため、胃の内容物を検査するしかありませんでした。
| これは青酸化合物… たぶん青酸カリか青酸ナトリウムではないかという事です。
| そして第2薬の飲み残しを調べた結果、これは水であるという結論が出ました。
\__  _____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 第2薬は、ただの水?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | つまり、第1薬に致死量の青酸化合物が入っていたってことか。
         \__________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 問題は、犯人が第1薬を飲んでいるように見せている事。これに関しては、意見が割れていましたが…
| 結局のところ、板書の4番の可能性が高いと結論されました。
| 薬の中に油分を混ぜておけば、比重の差によって層の分離は可能です。
| 「薬ビン内の上層は澄み、下層は白濁していた」「微かにガソリン臭がした」という行員の証言が裏付けですね。
| また旧日本軍で青酸化合物を保存する際、空気との反応を防ぐために油を入れておくというやり方が一般的。
| やはり、犯人は相当に毒物に通じている事が再確認されました。
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 なぜ、犯人は薬を飲んだのに異常が無かったか?
  1.飲んだと見せかけて、実は飲んでいない。
      →16人の真ん前で、それはちょっと無理。
  2.事前に、中和剤のようなものを飲んでいた。
      →かなり危険な方法だし、そもそも青酸化合物に中和剤なんてあるのか?
  3.スポイトにあらかじめ中和剤が注がれており、最初に自分の湯呑みに薬を入れる際にそれを混ぜた。
      →かなり危険な方法だし、そもそも青酸化合物に中和剤なんてあるのか?
  4.薬ビンの中で、有毒な層と無毒な層に薬品が分離していて、自分には無毒な層を注いだ。
      →!?
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | そもそも、自分でまず飲んでみせるってのが悪魔的だよな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | それで行員達を安心させ、まんまと毒殺したんだからな… まるで推理小説みたいだ。
         \____________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして… なんと事件後に、男が盗んだ小切手を換金していたことが判明しました。
| 事件の翌日、安田銀行板橋支店。午後2時半に例の男が現れ、小切手を換金していったんです。
| またこの男は、どうも小切手の扱いに慣れていなかった事も判明します。
| 手続き上、小切手の裏に住所を書かないといけなかったんですが、最初はそれがなかったんですよ。
| 窓口で行員に注意されて、男は住所を記したんです。
| この際に男は「板橋三の三六六一」と記しましたが、当然ながら実在しない住所でした。
\__  _______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | でも、犯人の筆跡は取れたんじゃないか…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | なんか、すっげえマヌケだな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| さらに、警察の捜査の過程で驚くべき事が分かります。
| 犠牲者こそ出なかったものの、事件に類似した出来事が以前に2件も起こっていたんですよ。
| うち一件は1947年10月14日、もう一件は1948年1月19日… 帝銀事件のわずか1週間前です。
\__  ____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 事件より前に、未遂のケースがあったのか…!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | こりゃ、手が込んでるな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| まず、一件目。1947年10月14日午後3時、安田銀行荏原支店に知的かつ柔和な雰囲気の男が現れます。
| 彼は支店長に『厚生技官 醫學博士 松井蔚 厚生省豫防局』と書かれた名刺を渡すと、こう言いました。
| 「近隣の家で集団赤痢が発生し、その内の1人がこの銀行に来ていた事が判明しました。
|  そういうわけで、GHQのパーカー中尉率いる防疫隊が間もなく到着します。
|  私は、消毒前に予防薬を飲んでもらう為、一足先に派遣されてきました」。
| なおパーカー中尉というのは、GHQの防疫関係者として実在している事が後に判明します。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚;)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | まさに、そのままじゃないか…!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 風貌も一致するな…
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ここで支店長は部下に命じ、交番に赤痢発生の事実を確認に行かせました。
| しばらくして、その部下は警官を連れて戻ってきます。
| やって来た警官は、「GHQの防疫隊が来てる様子もないし、赤痢発生など聞いていない」と男に言いました。
| 男は「警官がそんな事を知らんようでは困る。もう一度見てこい」と告げ、警官は再度確認に行くハメに。
| そして男は、薬のビンを取り出して言いました。「第1薬を飲んで1分後に、第2薬を…」。
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 警官、情けなすぎないか…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 相手は、GHQお付きの医師様だぜ? ヒラの警官が逆らえる相手じゃない。
         \________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして男の言葉通り、第1薬を飲んで1分後に第2薬を飲む行員達21名。
| しかしちょっと気分が悪くなったくらいで、何も異常は起きませんでした。
| 男はしばらくして、「本隊の到着が遅いから、見て来る」と言い残して立ち去ります。
| 以上が、未遂第一の事件の一部始終でした。
| 成り行きが資料によって一致していないんですが、どうも行員の供述が曖昧なのが原因みたいですね。
\__  ________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 何も起きなかったって… 失敗したのか?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | いや、実際の犯行を上手く進ませるための予行練習だったのかも…
         \_____________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 次に二件目、1948年1月19日に起きた事件。これも、成り行きが資料によって一致していないんですが…
| 三菱銀行中井支店に、やはり知的かつ柔和な雰囲気の男が現れます。
| 彼は『厚生省技官 醫學博士 山口二郎 兼東京都防疫課』と書かれた名刺を支店長に渡し、
| 「近隣の寮で集団赤痢が発生、その中の大谷さんという人がこの銀行に…」といつもの解説。
| それを聞いた支店長は言いました。「ちょっと待っててください。大谷さんという人が来たか調べますので」。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 支店長、ナイス切り返し!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | これで、素直に男の言う事に従っていたら…
         \___________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして… 大谷とやらが銀行に来ていた事が判明するものの、その大谷は男が言った寮とは関係ない人でした。
| 「この人の間違いではないですかね?」と言いながら、支店長は大谷名義の小為替を男に見せます。
| 男は「そうかもしれません。念のため、これは消毒しておきます」と言った後…
| その小為替にビンの中の液体を振りかけ、そのまま男は立ち去っていきました。
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なんか、マヌケだ…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | なんとも脱力する話だな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| この二件は、当時は事件とも思われなかった為、当然ながら報道されていません。
| つまり、類似犯の可能性はありえない… さらに、男の風貌は非常に似通っています。
| 警察は、これを同一犯の仕業として捜査を進めていきました。
\__  _________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 予行演習なのか、単なる失敗なのか…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 二件目のケースは失敗っぽいな。一件目は、どうなんだろう…?
         \___________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| とにかく、この事件はなんともアンバランスなんです。
| 事件全体の流れからして、犯人が毒物に通じていたのは間違いないところ。
| さらに、柔和かつ落ち着いた態度を崩さないままに、全員の器に致死量の毒薬を分配する…
| 行員の供述でも、この際に動揺した素振りは全くなかったとされています。
| その後も、まるでモルモットを観察するかのごとく現場に残り、効き目が現れるまで待ってるんですね。
| 総じて見ると、悪魔的な冷酷さを感じます。こんなの、そこらのシロウトに出来ますか?
\__  _______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 表情一つ変えず、16人全員の毒殺を企てたんだもんなぁ…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | やっぱ、犯人はマッドな医者か何かを想定してしまうな。
         \_______________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| それでいて、犯罪自体は余りにも素人的なんです。
| 小切手換金の際は平気で筆跡を残した上、毒を飲ませるプロセス自体も非常に稚拙。
| 少しでも間違えれば事前に発覚していたでしょうし、実際に危ない局面が何度もありました。
| 事件翌日の小切手換金にしても、警察の手配が早ければその場で捕まっていた可能性すらあります。
| すでに手配が回っている可能性があるにも関わらず、犯人はホイホイ換金に現れたんですよ。
\__  _______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 確かに、犯人像がまるで浮かばないな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 冷徹な医学博士、犯罪なんて初めてです的なシロウト…
         | まあ両方の要素を備えていたってのもありえるが…
         \_______________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| さらに、これほど巧緻の限りを尽くした手段で、12人もの人間を毒殺し…
| その結果、机の上に置いてあった僅かばかりの金額を持ち去っただけ。
| 手段と目的の規模が比例してない… と言うか、明らかに金銭目的とは思えません。
| 他にも、なぜか相田家で実際に起きた伝染病発生を事前に知っていたり、
| 実在するGHQ防疫関係者の名前を把握していたり…
\__  ________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 情報化が発達した現在ならともかく、当時はそんなの調べようがないからなぁ…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 余りにも謎が多い犯人か。
         \______________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| また、捜査関係者や一部の法医学者はこんな考えを持っていたと言われています。
| 犯人は第1薬と第2薬の間の時間を1分と設定している事からして、効果が出る時間を把握している事は明白。
| 素人はもちろん、理論と動物実験による知識しか持たない、通常の医学者でも怪しい。
| これは、実際に人間を毒殺した事がある経験者… それも1回や2回じゃありません。
| 詳細な統計データを取れるほど、他者への毒殺を経験した者の仕業…
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | でも… そこまで毒殺を繰り返せば、普通は大事件になるだろ?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………………………………
         \________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| とにかく警察は、捜査グループを主流班と名刺班の2つに分けて本格捜査を開始します。
| 主流班は、毒物に詳しい人間を徹底調査。名刺班は、その名の通り残された名刺を調査。
| 帝銀事件の際の名刺は犯人が持ち去っていますが、未遂事件で残していった名刺2枚は存在していました。
| そして『山口二郎』の方は架空の名前でしたが、なんと『松井蔚』は実在する人間である事が分かったんです。
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 『厚生技官 醫學博士 松井蔚 厚生省豫防局』:1947年10月14日の未遂事件
 『厚生省技官 醫學博士 山口二郎 兼東京都防疫課』:1948年1月19日の未遂事件
 『東京都衛生課並厚生省厚生部醫員 醫學博士 ○○』:帝銀事件の際の名刺。支店長代理の記憶による。
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | どうでもいいけど… 『松井蔚』って何て読むの?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 『まつい しげる』。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| この松井蔚は仙台に実在する医学博士で、例の名刺は紛れもなく彼のものでした。
| そして松井蔚は元陸軍防疫給水班所属で、あの731部隊とも関連があったんです。
| 毒薬にも詳しく、当初は犯人扱いもされてたんですが…
| 彼にはアリバイが存在し、犯人ではない様々な状況証拠も存在しました。
| さらに彼は、「元部下であった者が、私の名刺を悪用したのかもしれない」と発言。
| そして名刺班は、過去に松井蔚の名刺を受け取った者の洗い直しを開始しました。
\__  _______________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜   モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 731部隊…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 旧陸軍に存在した生物戦専門部隊で、生物兵器の研究機関みたいなもん。
         \________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 松井蔚は、名刺を渡した日付や場所、相手をいちいちメモっている超几帳面な人間でした。
| その彼の性格が、警察による名刺捜査を大いに進展させます。
| 松井蔚が刷った名刺は100枚、彼の手元に残っていたりして、誰にも配っていないのが8枚…
| 残る92枚のうち、62枚が回収成功。紛失したとみられる(かつ事件に関係無し)のが22枚…
| そして、行方が掴みきれなかったのが8枚… この8枚のうちの1枚を手にした犯人が、事件で使用したんです。
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (,,゚Д゚)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | すげぇな、警察。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | あ、静かになった…
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして… その8枚を捜索した結果、ついに容疑者が浮上してきます。
| その名も、画家として一流だった56歳の男、平沢貞通。
| 彼は事件の前年、青函連絡船でたまたま松井蔚と知り合い、確かに名刺を交換したんです。
| しかし、平沢貞通は松井蔚の名刺を持っていなかったんですよ。
| 彼は、「名刺は、電車の中で財布ごとスリにスられた」と主張しました。
\__  ___________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | スリにスられた… なんとも苦しい言い訳に聞こえるな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | う〜ん…
         \____________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 生き残った銀行員4人に平沢貞通の写真を見せた結果、「似ている」と「似ていない」で意見は真っ二つ。
| しかし、彼が以前にも銀行で4件もの詐欺事件を起こしている事が発覚。
| さらに、小切手から採取された筆跡と彼の筆跡が「似ているようだ」という鑑定結果も到着。
| こうして平沢貞通は、本人が否認しているにもかかわらず、帝銀事件の犯人として逮捕されてしまいます。
| 8月21日… 事件から約7ヵ月後の出来事でした。
| なお、この容疑者護送の際、強引なやり方や早期に新聞記者に接触させた事が人権問題となっています。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 過去に、銀行で事件を…!?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | こりゃ、いよいよ言い逃れも厳しいな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| また事件前後、彼の銀行口座には8万円が振り込まれている事が判明。
| この金の出所について追求されても、平沢貞通は何も喋ろうとはしませんでした。
| 次に彼のアリバイですが… 事件当日の午後2時、平沢貞通は東京丸の内で娘(次女)の夫と会っています。
| そして30分ほど喋った後、自宅に戻ったと言う事だとか。
| 午後2時30分まで丸の内にいて、犯行時刻の午後3時に帝国銀行椎名町支店へ到着するのは厳しいです。
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 厳しくても、決して不可能って訳じゃないんだろ?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | まぁな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして彼は、午後2時30分に娘婿と別れた後、そのまま家に帰っていると主張しているのですが…
| なんと、自宅にて娘(三女)の友人であるエリー軍曹と会ったと言ってるんですよ。
| この事実が証明されれば、完全にアリバイは成立。
| しかしGHQ所属であったエリー軍曹は唐突に本国へ呼び戻され、彼からの証言は得られなかったんです。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 唯一のアリバイ証言者が、とっとと帰国しちゃったのか。友人のオヤジのピンチなのに薄情だな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………………
         \_____________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| しかし厳しい取調べの結果、平沢貞通はとうとう自らが犯人である事を自白。
| こうして、警察は帝銀事件の犯人を逮捕するという大金星をあげます。
| 警察では重大事件の解決と言う事で大規模な打ち上げが行われ、なんとGHQの高官までが出席。
| 戦後最大の毒殺事件は、こうして幕を下ろしました――
\__  ______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「不可解にも近い障害を克服して帝銀事件を見事に解決したことは世界でも類例を見ない。
 諸君は容疑者に手錠をはめたり、護送の途中新聞記者に会わせたことに対し、
 人権を侵害したとの批判を浴びたが、これは事情を知らぬ者の言である」
                         GHQ公衆安全課主任警察行政官 H・S・イートン
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | これで終わりか。意外とあっけない結末だったな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………………
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ――って、そんなはずがないじゃないですか。ぜんぜん事件解決になっていませんよ。
| ただの画家だった平沢貞通が、どこでどうやって青酸化合物を手に入れたんですか。
| その後の2度に分ける飲ませ方といい、平沢貞通はどこでそんな知識を仕入れたんですか?
| おまけに、なんで近隣での伝染病発生の事実やGHQの防疫部署関係者の名を知ってたんですか?
\__  ______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ほら… 独学で頑張ったとか。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | どうやって、独学で頑張れるんだよ。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| さらに、物証なんてまるで無いに等しいじゃないですか。
| 現場からは、平沢貞通の指紋一つたりとも発見されてませんよ。
| 容疑を裏付けるのは、彼の自白のみなんです。
| 後は銀行詐欺の過去とか、例の名刺とか、事件前後の8万円の入金とか…
| 名刺を除いて、直接犯行とは結びつかないモノばっかり。
| さらに彼は「名刺の入ったサイフが盗まれた」と主張してましたが、きっちり盗難届けも出してるんですよ。
\__  ________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 確かに… これで犯人ってのはムチャ過ぎるわな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 当時は、確か自白が重要視されてたんだろ。
         \___________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 筆跡鑑定だって、「似ているようだ」ってなんですかその曖昧さ。
| 鑑定者によっては、「別人の筆跡である」と断定した者までいるんですよ。
| 未遂事件を含めた目撃者と平沢貞通の面通しでも、「似ている」やら「似てない」やら意見は真っ二つ。
| 人によっては、似てる似てない以前に、「犯人はもっと若かった」とまで言ってる目撃者も。
| なお帝銀事件生き残りの村田正子は、「平沢貞通と犯人は別人」と一貫して主張しています。
\__  _______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「その男の人相は、年齢は44、5歳、丈は5尺3、4寸、頭は坊主狩りで前だけがちょっと伸びており、
 一見柔和な顔で、上品な言葉使いは落ち着いていて物静か、
 医者か消毒係の上に立つような人柄を持った上品な方でした。(中略)
 その犯人の顔は、いまでも浮かび、連れて見せていただけばすぐわかります」
                                             村田正子(行員)の供述
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | う〜ん… ややこしい事になってたんだなぁ。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 筆跡も面通しも、意見が一致しなかったのか。
         \___________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして、初公判において平沢貞通は犯行を否認します。
| 「あの自白は、精神的拷問の結果引き出されたものである」と証言し、無実を主張…
| そう、帝銀事件は終わってなどいなかったんですよ。
\__  ________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | じゃあ、他に真犯人がいる…!?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | その可能性が高い、って話だな。
         | 少なくとも、平沢貞通を犯人とするには裏付けが弱過ぎる。
         \_________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| なんとなく想像できる通り、平沢貞通への取調べは非常に過酷なものでした。
| そして9月24日からとうとう自白を始めるんですが… もう、この時に彼はフラフラだったようです。
| また平沢貞通の取調べをややこしくしたのは、彼がかかっていたコルサコフ氏病。
| 20年ほど前、狂犬病の予防注射を受けた際、平沢貞通にこの厄介な病気が発症してしまったんですよ。
\__  ________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ・コルサコフ氏病
  脳への強い衝撃や、他の病気の後遺症、狂犬病予防注射の副作用でまれに発生する精神疾患。
  虚言癖や記憶障害、判断力低下が主な症例。
  自らの記憶の欠落をウソで埋めるように、損得の区別なく作り話を繰り返す。
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | いわば、ウソ付きになる病気か…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | こりゃ、厄介だな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| このコルサコフ氏病によるウソってのは、後先考えないテキトーなウソ。
| 特に、相手が喜びそうなウソや自慢話の類を好んでしまいます。
| 平沢貞通の自白は、このコルサコフ氏病による虚言ではないかという疑いも出てきたんですよね。
| 彼が過去に起こした銀行詐欺ってのも、適当なデタラメを言って他人の小切手を換金しようとしたもの。
| どう考えても、すぐにバレる後先考えない犯罪に過ぎません。
| 12人もの人間を、熟練した手法で冷徹無比に毒殺した帝銀事件とは違いすぎます。
\__  _______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 確かに、イメージが合わなさすぎるなぁ…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | イメージで語るのは危険だが、この事件の場合はあんまりにもなぁ。
         \____                  ∧
              / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
              | そもそも、毒物に関する知識をどこで仕入れたのか問題でしょう。
              \___________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして重要な状況証拠の一つだった、事件前後の8万円の入金。
| これに関して、平沢貞通は取調べでも喋ろうとしなかったんですが…
| どうも有名な画家の平沢貞通が、お得意さんに描いた春画(エロ絵)の料金じゃないかって可能性が浮上。
| 彼ほど一流の画家なら、そんな絵を描いて稼いでいたなんて絶対に知られたくない話。
| また、その絵を買ったお得意さんへの信用問題にもなります。バラされて嬉しい話じゃありませんから。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (;゚Д゚)      (;゚Д゚)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なぁ… 今、なんかモヤットボールが…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | き、気のせいだろ…?
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして具体的には不明だった、毒殺に使われた青酸化合物… これに極めて類似するものが見つかりました。
| その正体は、アセトンシアンヒドリン… なんと、大戦中に陸軍第九技術研究所で開発されていた化学兵器。
| 胃内など酸性下では安定していますが、アルカリ性になるとアセトンと青酸に分解されます。
| また水などを飲んでも、青酸への分解が促進され… そのまま強い毒性を発揮、対象を死に至らしめるんです。
| 軍属の研究者達は、これを「青酸ニトリール」と呼んでいました。
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 第1薬と第2薬… 第1薬がこのアセトンシアンヒドリンで、第2薬が単なる水だったとしたら…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | まさに事件とピッタリだな。
         \___________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 通常の青酸カリならば、かなりの即効性があります。つまり、飲んで数秒で症状が出ます。
| だから、10人を越える人数を毒殺しようとする場合には向かないんです。
| 最初に飲んだ1人が苦しみだせば、異変に気付かれますからね。
| いくら同時のタイミングで飲まそうとしても、限界がありますし。
| その点、「青酸ニトリール」なら遅効性で、胃内の状態が変わるまで有毒化しません。
| しかしこれ、陸軍第九技術研究所や731部隊などの軍属研究者以外は入手不可能な極秘薬品でした。
\__  ________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛    ●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なんで、平沢貞通がそんなモノを…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 平沢貞通どころか、こんなの普通の医学博士でも手に入らないんじゃないか?
         \_________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| こういう訳で、「どうも平沢貞通は犯人ではないんじゃないか?」という見方が世論でも沸騰。
| しかし1950年、東京地裁において平沢貞通に死刑が言い渡されます。
| 1951年の控訴も退けられ、1955年には最高裁にて死刑が確定。
| しかし冤罪を主張する平沢貞通は、再審請求を繰り返します。
\__  ___________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 死刑か…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | まあ、12人も殺害してるんだからなぁ。本当に彼が犯人だったらの話だが。
         \_______________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そんな中、1962年に作家の森川哲郎が中心となって「平沢貞通氏を救う会」が発足します。
| これに参加したのは、作家の松本清張や国会議員、法曹関係者など…
| 帝銀事件当時、捜査2課で捜査主任をしていた成智英雄(この時には退職済)も参加しています。
\__  _____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なんと、元警察の人間まで…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | これでも、死刑確定から7年が経ってるんだな。
         \____________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして、1967年… 捜査に携わった甲斐文助警部が記してきた私的捜査記録の存在が明らかに。
| このいわゆる「甲斐メモ」には、驚愕の事実が記されていました。
| 警察は当初から旧軍関係者を疑い、かなり深いところまで捜査していたんですよ。
| しかしGHQから謎のストップがかかり、捜査は頓挫… その後に浮上してきたのが、平沢貞通なんです。
\__  ________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | き、旧軍関係者…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | GHQ…?
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 事件を見返してみれば、様々なところでGHQは顔を出しています。
| そもそも犯人は「GHQから派遣された」と言ってますし、GHQ防疫対策部署の関係者の名前を把握。
| また、銀行近隣の相田家で実際に伝染病が発生したと言う事実も、GHQなら把握しています。
| なんかもう、「GHQの中に犯人がいる!」とも言えそうな勢いで関わっているんですよね。
\__  ______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | GHQの中に犯人が…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | さすがに、そりゃ言い過ぎだろ。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ここで「甲斐メモ」に従いながら、発生直後に遡って事件を見返してみましょう。
| 捜査班が、毒物に詳しい人間を当たる「主流班」と名刺を当たる「名刺班」に分かれたと前回言いましたね?
| そして、名刺班の捜査が平沢貞通逮捕に繋がるんですが…
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | その間、主流班の方は何をしてたんだ?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 毒物に詳しい人間の調査… その名通り、こっちが主流だったんだよな。
         \______________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 主流班は、当初から犯人は旧軍関係者の可能性が高いと見当をつけていました。
| 犯行の余りに冷静すぎる手口、毒物を熟知した手段、そして、所持品…
| 犯人が事件で使用していたスポイトは、正確に言えばピペット。
| これは、旧軍の研究所で使われていた用具と同じタイプだったんですよ。
\__  _______________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「軍関係薬品取扱特殊学校、研究所又は之に従属した教導隊、或いは防疫給水隊、
 若しくは特殊機関に従属の前歴の有する者(主として将校級)から容疑者を物色されたい」
                                           『帝銀事件捜査要綱』
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 軍研究所が使ってたのと同じタイプの用具を!?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | そりゃ、関連を疑うな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして、旧軍関連部署が徹底的に洗われたんですが…
| 捜査の過程で、陸軍第九研究所に所属した技術少佐、判繁雄は驚くべき証言をしました。
| 青酸カリでは帝銀事件のような毒殺法は無理である事、そして遅効性の極秘薬品、青酸ニトリールの存在。
| さらに、人体実験において捕虜に毒を飲ませるとき、まず自分が飲んだふりをするという手法…
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「青酸カリはサジ加減によって時間的に経過さして殺すことは出来ぬ。
 私にもしさせれば、青酸ニトリールでやる」
                          旧陸軍技術少佐 判繁雄
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━●● モヤット
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)      ●●● モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ    / ●●●●
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ ●●●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧===============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 青酸ニトリールに関しては、前回の講義で聞いたな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 確か、遅効性の青酸化合物だっけか。
         \____                  ∧
              / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
              | 第2薬と称して水を飲ませ、化学反応を促進させたのにも合致するわね。
              \_______________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 他の旧軍研究者も、様々な者が「あれは青酸ニトリールに違いない」と証言。
| さらに旧731部隊の部隊長である石井四郎は、「私の部下に真犯人がいる気がする」と洩らしました。
| また彼は「犯人は軍関係者に違いない」と言い、捜査員に旧731部隊員のリストを提供しています。
| けっこう協力的だったのが意外… こらこら、ちゃんと講義聴いてますか?
\__  ______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (;゚Д゚)      (;゚Д゚)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | …………………………………………!?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | …………………………………!?
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| アリバイがあった者、確実に犯人でないと判断された者は捜査リストから外されていき…
| そして、最後まで残った疑惑の人物が存在しました。彼の名は、諏訪中佐。
| 外見は非常にスマートかつ知的で、紳士的な雰囲気を持った男…
| 体格も特徴も、様々な点が犯人像に一致していたんです。
| しかし諏訪中佐は友人や知人との交流が全くなく、行方すら不明だったんですよ。
\__  __________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なんと!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 怪しい!
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| こうして成智警視は、諏訪中佐の消息を調査しましたが…
| 彼は事件の翌年、すでに病死していたことが判明したんです。
| 疑惑の人物に対する捜査は、ここで行き詰ってしまいました。
\__  ______________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 疑惑の人物の病死…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | おおお。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| さて… この帝銀事件を捜査していたのは、警察だけではありませんでした。
| 各新聞社もそれぞれの情報網で調査していたんですが…
| そんな中、読売新聞の大木次長が警視庁に呼び出しを受けます。
| 彼の通された部屋には、捜査本部長とGHQの中佐の姿が。そこで、大木次長は以下の事を告げられました。
| 「石井部隊は、対ソ戦に備えて温存中である。これを暴かれては米軍は非常に困る。調査から手を引いてくれ」
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 石井部隊…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 731部隊のこと。「対ソ戦に備えて温存中」ってのは、さすがに疑問符が付くが…
         \_________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| また、やり手で知られた読売新聞の遠藤社会部記者も捜査本部長から電話を受けます。
| 「今、君のやろうとしている事件から手を引いてくれないか。権威筋からの命令でね」
| こういう露骨な圧力に、遠藤記者も手を引かざるをえなくなりました。
\__  __________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 権威筋?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | この当時の警察以上の権威なんて、GHQしかないだろうが。
         \_________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| なぜ、GHQからの圧力があったのか…
| その理由は、731部隊はアメリカに実験データを供出するのと引き換えに、戦犯追及を免れていた事にあります。
| なので731部隊に捜査の手が及べば、思わぬ形でアメリカに飛び火する危険性があったんですね。
| 731部隊の存在が明るみに出るのは、なんとしても避けたかったんですよ。
\__  ___________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | こりゃ、アメリカとしては表に出せんわな。ちょうど、東京裁判の真っ最中だったし。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | じゃあ、平沢貞通のアリバイを唯一証言できたエリー軍曹の突然の帰国命令も…
         \__________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| こうして、主流班はGHQの壁と言う行き止まりに突き当たります。
| それとほぼ同時期、名刺班が「ぽっと出」の平沢貞通という容疑者を逮捕。
| 当然ながら、主流班は唐突に浮上したただの画家が犯人なんて到底思えません。
| しかし平沢貞通の銀行詐欺の過去が発覚すると、主流班も平沢貞通犯人説に傾いていきます。
| 本筋の旧軍関係者の方は、GHQの圧力で捜査がストップ。
| もはや、平沢貞通が犯人であるという方針しか残されていなかったんですよ。
\__  _____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 警察にとっては、未解決のままでは終わらせる事ができない事件だもんな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | そんな事したら、国民もブチ切れだ。税金払ってくれなくなるぞ。
         \_____________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 彼は自らを「無実」と主張し、抗議の自殺を3度も繰り返します(当然、全て未遂)。
| しかし警察の厳しい取調べで、ついに平沢貞通は自白…
| この時の彼は疲労困憊していたのは事実で、さらに自白調書偽造疑惑すら存在します。
| 調書の中に、平沢貞通本人のサインではないと思われるものが混じっていたんですよ。
\__  _________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | コルサコフ氏病の影響もあって、その場を逃れるために適当なウソを付いた可能性があるんだな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | そして、それが自白として採用… おまけに、自白調書偽造疑惑…
         \______________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 不明であったはずの青酸化合物は、いつしか書類の上では「青酸カリ」となっていました。
| 青酸カリは即効性のため、事件の状況に合わないのは前述の通り。
| これを検察側は、「青酸カリが古くなっていたため遅効性になった」というインド人もびっくりのコメント。
| 犯人がピペットを持っていたという事実も消え、書類では単なる「スポイト」に。
| こんな風に、平沢犯人ストレートコース。
\__  _______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ひ、ひでぇ…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | もはや罪の押し着せだな。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| こうして先ほど言ったように、1950年には東京地裁において死刑判決。1955年には最高裁にて死刑が確定。
| こういして死刑囚となった平沢貞通ですが… 判決通りの死刑はなかなか執行されませんでした。
| 彼の冤罪説が世論でも高まり、歴代の法務大臣は死刑承諾書にサインをする事をためらったんですよ。
| それでも、平沢貞通による再審請求はことごとく却下。
| ただ、死刑までの時間が伸ばされるだけの日々が延々と続きます。
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 死刑執行を待つ日々…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | たまらんね。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして、死刑判決が出てからなんと32年後…
| 1987年5月10日、平沢貞通はとうとう獄中で病死します。享年は95歳。
| 最期まで、彼は自らの無実を叫んでいました。
\__  __________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 95か…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 結局、本人が生きてる間に名誉回復は出来なかったんだな。
         \__________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| その一方で、GHQの壁などなかったっていう見方もありますがね。
| 読売への圧力は、むしろ警察がGHQに要請したって話もあります。
| 読売記者が重要参考人の周囲をウロつき、捜査に支障が出てたみたいなんですよね。
| 例の「甲斐メモ」に、そう取れる部分が出てきます。
\__  _________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ええっ!?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | もう、何が本当なのか分からん状態になってきたな。
         \______________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| また諏訪中佐という人物に関して、2人の人間を混同していたという説もあります。
| この疑惑の人物は、それこそ警察が頭から軍関係者を疑ったゆえの虚像…
| また「平沢貞通氏を救う会」側の行動にも、いくつか問題行動が――
| まあ、GHQ関与説がメジャーとなった現在では、こっちの方がよっぽどタブーですね。
\__  ________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「主力捜査班が731部隊の犯行と最初に思い込んでしまったため、
 いつまで経っても犯人が見つからず、名刺班に先を越されたに過ぎなかっただけ」
                                       名刑事 平塚八兵衛
 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━
/\/ ̄つ ∇       (゚Д゚;)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | な、なんだそれ?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 2人の人間を混同…? つまり、疑惑の中心だった諏訪中佐は存在しないって事か?
         \____________________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 結局のところ、犯人は何者だったのか…? これは、現在でも結論が出ていません。
| 毒物に詳しく、GHQ防疫対策部署の情報に通じ、かつ中国で行われた人体実験の手法を熟知していた者。
| 731部隊の残党なのか、旧軍からGHQに流れた者の誰かなのか。
| そして、そんな旧軍研究者の亡霊のような者が、なぜ戦後3年経ってからこのような凶行を行ったのか。
| 金目当てなのか、それとも実験のつもりだったのか、それ以外の意図があったのか…
| 犯人も動機も、現在となっては完全に闇の中です。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | モヤモヤするな…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 結局、何も分からなかいって事か。
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 平沢貞通死後の1989年、「平沢貞通氏を救う会」は19回目の再審請求を東京高裁に提出。
| さらに、青酸化合物の新鑑定結果などの新証拠もあり、平沢貞通が描いた春画が真贋鑑定中。
| 2006年現在も、帝銀事件の法廷闘争は続いています。
| 1948年… 戦後混乱期に起きたこの怪事件は、まだ終わってはいないんですよ。
\__  _____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧   /
 (,, ゚Д゚)━/ ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)    モヤット
\|/ギ|/┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ   モヤット
 /__|. |□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜  ●
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………………
         \__________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| さて、皆さんの憑き物は落ちましたかね…?
| 世の中には、不思議な事など… うわー! なにをするきさまらー!
\__  _________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,__
 iii■∧ モヤット
 (; ゚Д●三/ ━ モヤット ━∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
/\/ ̄つ   ●三 ⊂(゚Д゚#) ●三⊂(゚Д゚#)
\|/●三┌─┐   /     ヽ モヤット/     ヽ   モヤット
 /__モヤット |  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜 モヤット
  ∪∪  |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛  ●●
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧=============
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ふざけるんじゃねぇ! 毎回毎回モヤモヤさせやがって!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | いつも俺達に憑き物を憑かせてるのも、そもそもあんたじゃねーか!
         \_____________________________


/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| だって、未解決事件を扱ってるんだからこうなるのは仕方ないじゃないですか。
| では、ここらで今回の講義を終わりましょう。
\__  _______________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ,_モヤット
 iii■●● /
━●●モヤット━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━
●●●●●∇       (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
●●●モヤット ┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
.モヤット●●| □|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
●●●●|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧===========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 黙れ、モヤット教授。お前なんてモヤットで十分だ。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | やれやれ、帰ってAOE3でもやろうぜ。
         \________________


「戦史・事件 1948〜1980」に戻る
全講義一覧に戻る
左メニューが表示されていない方は、ここをクリック inserted by FC2 system