1/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 今回は、1920年代に起きた海難事故である「良栄丸」漂流事故について講義しましょう。
| これは、超自然現象など全く絡まない事故です。
\__  _________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━

  事故・事件史3:「良栄丸」漂流事故
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧
   |   つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なんだ、超常現象は出てこないのか。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | じゃあ、全く怖くなさそうだな。
         \_______________

2/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 1927年10月31日… アメリカのワシントン沖で、アメリカ貨物船「マーガレット・ダラー」号は漂流無人船を発見。
| 以前の講義でも言った通り、無人船ってのは海難事故で良くあるケースです。
| 「マーガレット・ダラー」の船員達は、漂流無人船に乗り移り… そこで、とんでもないものを目撃しました。
\__  __________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━

  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧
   |   つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 例によって、人が煙のように消え失せていたわけだな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 死体もなく、テーブルの上には温かい朝食が…
         \____________________

3/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 2人とも、まるで大ハズレ。船内にはまさに地獄の光景が広がっていました。
| 船体はボロボロで、船内に充満した凄まじい死臭。
| 船内の至る所にミイラ化した死体や白骨死体が転がり、その死体のあちこちは欠損した状態。
| 船室は血まみれで、調理室のコンロにあった石油缶には人間の腕が…
| …っと、いちおう警告です。ここから先は、お食事中の方や心臓の弱い方は読み飛ばすように。
\__  ____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━

 なお、船のエンジンは全て故障。
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………
         \_______________

4/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして、船内からは3冊のノートが発見されました。
| そこに記されている内容からして、この船は日本のマグロ漁船「良栄丸」。
| 機械の故障で、1年近くも漂流していたことが分かりました。
| しかし、妙な点がひとつ。乗組員は12名と記録されてるのに、見つかった死体は9人分だけなんですよ。
\__  ________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━

  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧
   |   つ ∇       (゚Д゚;)     (( (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ ))
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | さ、3人足りない――!!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ガクガクブルブル
         \_______________

5/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 記録によれば… 「良栄丸」の出港は1926年(大正15年)12月5日。
| しかし12月12日には機械が故障し、漂流状態となります。
| 残りの食料は4ヶ月分。近くを通った船も、ことごとくが「良栄丸」の異常に気付きませんでした。
\__  ____________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「どう工夫しても西北へ船は走らず絶望。ただ汽船を待つばかり。
 反対にアメリカへ漂着することに決定。帆に風を七三にうけて北東に進む…。
 しかし、漁船で米国にたどりつこうとするは、コロンブスのアメリカ大陸発見より困難なりと心得るべし」
                                                「良栄丸」航海日誌より
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ああ…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | なんてこった…
         \_______________

6/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして4ヶ月が経過… 乗組員達の連名で、彼等は船板に板書した内容を記しました。
| 大正16年と記されていますが、大正15年をもって昭和に変わった事など知る由もありません。
\__  ___________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「大正15年12月5日、神奈川三崎出発、作業中クランク部破れ、
 食料白米一石六斗にて今日まで命を保ち (中略) ココに死を決す。 大正16年3月5日」
                                          船板に残された文章
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 死を決す…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | うああ…
         \_______________

7/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| こうして3月、食料は底を尽いてしまいます。
| 上記した連名文が記されて間もなく、とうとう餓えにより最初の犠牲者が出てしまいました…
\__  ___________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「3月6日。魚一匹もとれず。食料はひとつのこらず底をついた。恐ろしい飢えと死神がじょじょにやってきた」
「3月7日。最初の犠牲者がでた。機関長・細井伝次郎は、「ひとめ見たい・・・日本の土を一足ふみたい」と
 うめきながら死んでいった。全員で水葬にする」
                                                  「良栄丸」航海日誌より
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………
         \_______________

8/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして… 1人、また1人と亡くなっていきました。
| この頃から、極限状況による狂気も見え始めます。
\__  ___________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「3月9日。サメの大きなやつが一本つれたが、直江常次は食べる気力もなく、やせおとろえて死亡。水葬に処す」
「3月15日。それまで航海日誌をつけていた井沢捨次が病死。かわって松本源之助が筆をとる。
 井沢の遺体を水葬にするのに、やっとのありさま。全員、顔は青白くヤマアラシのごとくヒゲがのび、
 ふらふらと亡霊そっくりの歩きざまは悲し」
「3月27日。寺田初造と横田良之助のふたりは、突然うわごとを発し、
 「おーい富士山だ。アメリカにつきやがった。ああ、にじが見える・・・・。」などと狂気を発して、
 左舷の板にがりがりと歯をくいこませて悶死する。いよいよ地獄の底も近い」
                                                      「良栄丸」航海日誌より
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………
         \_______________

9/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| この辺から、水葬にしたという描写は出てきません。
| もう、そんな気力も残ってなかったんですね…
| そして… とうとう極限状況が悲劇を導いてしまいました。
\__  _____________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「3月29日。メバチ一匹を吉田藤吉がつりあげたるを見て、三谷寅吉は突然として逆上し、オノを振りあげるや、
 吉田藤吉の頭をめった打ちにする。その恐ろしき光景にも、みな立ち上がる気力もなく、しばしぼう然。
 のこる者は野菜の不足から、壊血病となりて歯という歯から血液したたるは、みな妖怪変化のすさまじき様相となる。
 ああ、仏様よ」
「4月4日。三鬼船長は甲板上を低く飛びかすめる大鳥を、ヘビのごとき速さで手づかみにとらえる。
 全員、人食いアリのごとくむらがり、羽をむしりとって、生きたままの大鳥をむさぼる。
 血がしたたる生肉をくらうは、これほどの美味なるものはなしと心得たい。これもみな、餓鬼畜生となせる業か」
「4月6日。辻門良治、血へどを吐きて死亡」
                                                       「良栄丸」航海日誌より
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………
         \_______________

10/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| もう、コメント不能…
| 薄っぺらい言葉など意味を持たない事を痛感します。
\__  ___________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「4月14日。沢山勘十郎、船室にて不意に狂暴と化して発狂し死骸を切り刻む姿は地獄か。
 人肉食べる気力あれば、まだ救いあり」
「4月19日。富山和男、沢村勘十郎の二名、料理室にて人肉を争う。地獄の鬼と化すも、
 ただ、ただ生きて日本に帰りたき一心のみなり。同夜、二名とも血だるまにて、ころげまわり死亡」
「5月6日。三鬼船長、ついに一歩も動けず。乗組員十二名のうち残るは船長と日記記録係の私のみ。
 ふたりとも重いカッケ病で小便、大便にも動けず、そのままたれ流すはしかたなし」
                                               「良栄丸」航海日誌より
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………
         \_______________

11/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| そして、これが航海日誌の最後の記述となります。
\__  __________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「5月11日。曇り。北西の風やや強し。南に西に、船はただ風のままに流れる。山影も見えず、陸地も見えず。
 船影はなし。あまいサトウ粒ひとつなめて死にたし。友の死骸は肉がどろどろに腐り、
 溶けて流れた血肉の死臭のみがあり。白骨のぞきて、この世の終わりとするや…」
                                                   「良栄丸」航海日誌より
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………
         \_______________

12/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| しかし、杉板には船長が残した家族宛の遺書がありました。
| 余りにも悲痛すぎる内容に、コメントを差し挟む気すら失せますね…
\__  __________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「とうさんのいうことを、ヨクヨク聞きなされ。もし、大きくなっても、ケッシテリョウシニナッテハナラヌ…。
 私は、シアワセノワルイコトデス…ふたりの子どもたのみます。
 カナラズカナラズ、リョウシニダケハサセヌヨウニ、タノミマス。
 いつまで書いてもおなじこと…でも私の好きなのは、ソウメンとモチガシでしたが…
 帰レナクナッテ、モウシワケナイ…ユルシテクダサイ…」
                                                  三鬼船長の遺書
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ……………………………………………
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | ……………………………………
         \_______________

13/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| こうして無人状態でアメリカ船に発見された「良栄丸」は、ワシントンへ引かれていきました。
| 日本側遺族は「良栄丸」の返還を望まず、アメリカにて手厚く焼却されます。
| 乗組員の遺品は遺族の元に送り届けられ、こうしてこの痛ましい事故は終わりました…
\__  ___________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━

  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 俺達、いらない子になってないか?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 一体、何をコメントしろって言うんだよ…
         \_________________

14/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| しかし… ここにきて奇妙な事実が浮かび上がってきたんです。
| 「良栄丸」は漂流中に多くの船とすれ違ったはずなんですが、どの船も救助しませんでした。
| 決してすれ違った船が薄情だった訳じゃなく… どうも、妙な雰囲気だったようなんです。
\__  ___________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「1926年12月23日、シアトルから約1000キロの太平洋上で波間に漂う木造船を発見したが、
 救助信号を送っても返事が無いので近づきました。
 しかし、吉栄丸の船窓や甲板に立ってこっちを見ていた10人ほどの船員は、誰一人として応えず、
 馬鹿らしくなって引き上げたのです」
                          貨物船「ウエスト・アイソン」号船長 リチャード・ヒーリィ
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | なに!? なにこれ…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 一体、どういう事なんだ…?
         \_______________

15/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| また1927年1月上旬、漂流している日本漁船を発見したアメリカ船が、その漂流船に横付け。
| 3時間ほどその位置の説明をしつつ救助を申し出たが、日本漁船側はそれを拒否したという証言も…
| この一件、該当する日本漁船は「良栄丸」しかありません。
| そして、これらの外国船とのアプローチは航海日誌に記されてないんですよ…
| 超常現象とまでは言いませんが、非常に奇妙な出来事である事は確かです。
\__  _______________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━

  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧
   |   つ ∇       (゚Д゚;)       (゚Д゚;)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 最後の最後に、こんな事を紹介するなよ…
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | なんとも後味が悪いな。
         | まあ、この報告が真実かどうかも含めて、もう検証のしようもない…
         \____________________________

16/16
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 最後になりましたが、この事件で亡くなられた12人の乗組員に心よりご冥福申し上げます。
| さて… 次回は趣向を変え、とある「事件」について講義しましょうか。
| 1968年、東京府中にてそれまでの日本犯罪史上最多額の3億円という現金が、鮮やかな手際により強奪。
| 日本を引っ繰り返したこの事件は、後に「三億円事件」という名で国民に記憶される――
| 次回は昭和史に残る最大級のミステリー、「三億円事件」について講義します。
\__  _________________________________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━━━━

  事故・事件史4:「良栄丸」漂流事故 − 終
  ,__
  iii■∧   /
━ (,, ゚Д゚) / ━━━━━ ∧∧━━━━ ∧∧
   |   つ ∇      (゚Д゚,,)      (゚Д゚,,)
   |  |┌─┐   /⊂   ヽ    /⊂  ヽ
 〜|  ||□|  √ ̄ (___ノ〜 √ ̄ (___ノ〜
   ∪∪ |   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 「事故・事件史」の「事件」の方だな。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         | 三億円事件… 結局、迷宮入りだったんだっけか。
         \_____________________


左メニューが表示されていない方は、ここをクリック inserted by FC2 system